2010年08月03日(火) 00時01分00秒 soulsearchinの投稿

○YMN参集~松尾潔・中田亮・吉岡正晴(パート2)~マーヴァ・ホイットニーが語るジェームス・ブラ

テーマ:エッセイ
○YMN参集~松尾潔・中田亮・吉岡正晴(パート2)~マーヴァ・ホイットニーが語るジェームス・ブラウン・エピソード

【Yoshioka, Matsuo & Nakata: Dinner With Soul Talking (Part 2)】

(昨日からの続き)

マーヴァ。

「ソウル・ドレッシング」は壁にアーニー・バーンズの作品や新進気鋭のアーティストの作品などが額装されている。ここは2008年7月29日に開店して2010年7月29日にちょうど2年になった。(訪問したのは30日) 札幌の名ソウルバーの名前を冠したレストランだ。

後半おもしろかったのが、中田さんがてがけたジェームス・ブラウン・ファミリーのディーヴァ、マーヴァ・ホイットニーとのさまざまな話。中田さんは、ご存知の通りオーサカ=モノレールというJBファンクを伝承するバンドをやっている。その彼は1960年代にブラウン・ファミリーで活躍したディーヴァ、マーヴァ・ホイットニーのアルバムをプロデュース、2006年に日本発売、ツアーも敢行した。その過程で中田さんは多くの時間をマーヴァと過ごし、さまざまな話を彼女から聞いた。それまで、ジェームス・ブラウンについては、レコード、CD、ビデオと本くらいでしか情報を得ていなかったが、貴重な一次情報をふんだんに入手することができた。マーヴァによるジェームス・ブラウン像というものを中田さんが知り、そのあたりから、それまで持っていたブラウン像が変化していったという話になった。

■ Call The General

中田さんの話。「(2006年6月に)マーヴァ・ホイットニーと沖縄ツアーに行ったときのことです。ちょうど、基地のアウトドアでもライヴを行う予定だったんですが(こちらはメインではなかった)、雨で急遽中止になって、メインでブッキングしていたライヴ・ハウスだけでやることになった。(ちなみに、このムンドというライヴハウスは今は閉店してしまったが、血のにじむような努力をして沖縄に良質の音楽を届けていた。マーヴァのライヴも大変助けていただいた) チケットは思ったほど売れてなかったんです。あんまり客も来てないから、少し開演を遅らせようということになった。で、それをマーヴァに言いに行ったんです。すると、マーヴァが『あたしたちは、沖縄にいるんだろ。ここ、沖縄は米軍の基地があるんだよね』『はい』『何人くらいいるんだ、兵隊は?』『さあ』『10万人か20万人くらいいるのか』『いやあ、そこまでは…』すると、マーヴァがいきなり『Call The General(将軍に電話しろ)』って言うんですよ。『マーヴァが今、沖縄にいる。レジェンダリー・ソウル・ショーをやるから、ソウルミュージックを聴きたい人は行くように』と基地内の放送で言ってもらえと。一応、地元の人に連絡取ってもらったんですが、なかなか放送とかもできなくて、しかも、もう開演30分くらい前の急な話だったんで、ジェネラルには電話できなかったんですけどね。自分的には、あのマーヴァの『コール・ザ・ジェネラル(将軍に電話しろ)』っていうのが、ま、いまどきの日本にはない概念で、60年代にヴェトナム戦争に行った人ならではの発言で、60年代にあこがれてる若造としては、めちゃ盛り上がったんですよ」

しかし、現実離れした話ですばらしい。(笑) ヴェトナム戦争に慰問に行ったときの話などもいろいろ聞いたという。中田さんは同年、マーヴァとヨーロッパ・ツアーも行った。

「マーヴァとヨーロッパ・ツアーに出たときのことです。マーヴァは、とにかく、昔ジェームス・ブラウンの自家用飛行機で旅をしていたこともあるくらいで、めちゃくちゃお嬢様。それに荷物がものすごく多いんです。たった6回の公演で、靴と洋服だけででっかいスーツケース3つもあるんですよ。それも日本じゃ売ってないような、超でかいスーツケースですよ。当然、飛行機では超過料金取られますよ。それは、僕が払うんで。(笑) だから、マーヴァに『荷物、多すぎるから少し減らしてくれ』って言ったんです。そうしたら、『リョー、今日ステージに立って、その同じ服や靴履いて翌日も写真撮られてそれがインターネットにでも流れてみ。あいつ、同じのしかもってないぞってバカにされるぞ。ジェームスは、楽屋にこんなに(両手をぐっと広げる)靴並べてたんだ。だからこれくらい必要なんだ。お前も、ちゃんと毎日違うもん着ろ』って言われたんですよ。なんでも、ジェームスが話の基準なんです(笑)。 あたしは、ミュージック・ビジネスのことをみんなジェームスから教わった。だから、今、あたしがあんた(中田さんのこと)に教えてやっとるんだ(笑)」

■ グーで顔面

「あるとき、まだマーヴァがジェームス・ブラウン・レヴューにいたときのことです。(JBズのメンバー)ピー・ウィー・エリスとマーヴァが遊びで一緒に並んで、ハモンド・オルガンを弾いてたんだそうです。オルガン椅子ってこう、長いでしょう。そこに2人並んで。そうして楽屋に戻って二人きりになったら、いきなりブラウンからグーで顔面が~んと殴られたんだって。『お前、何やってんのや』って。『ジェームス・ブラウンの女が、その部下と一緒にオルガン弾いてるとは何事か』ってことなんでしょうね。すげえと思いましたよ。

それを聞いて、「JBってのは、狭量な男だなあ(笑)」と松尾さん。「まあ、ある意味、自らの小ささを知っていたからこそ、あれくらいの大きなことができたってことなのかもしれませんね」

中田さん。「付け加えると、実は『マーヴァ・ホイットニーはスターなので、バンドメンバーと仲良くしてはいけない』んですよ。基本的にマーヴァは、バンドメンバーと無駄話をすることを禁じられていたんです」

アイク&ティナ・ターナーの2人の関係を彷彿とさせるエピソードだ。

ジェームス・ブラウンの人心掌握術は、僕はかねてから田中角栄と似ているものを感じていた。そのあたりは、3人の意見が一致。中田さんから、マーヴァによるブラウンの人心掌握術の話も。

それによるとこうだ。たとえば、メイシオなんかが、待遇が悪い、ギャラが低いなどと文句を言うとブラウンは彼をクビにする。何ヶ月か経って、誰かにメイシオはどうしてるか調べて来いという。調べてきて報告する。田舎(生まれ故郷)で、たいして仕事はないみたいですよ、と。ブラウンはただ聞く。それからまた何ヶ月か経って、奴はどうしてるか、調べて来いという。スタッフが調べてきて、報告する。仕事はないみたいで、たいしたことはしてないみたいですよ、と。ブラウンは動かない。それからまた何ヶ月かしてスタッフに調べて来いという。仕事がなくてかなり生活にも困窮してるみたいですよ、と報告があがる。ブラウンはただ聞くだけ。そして何ヶ月か経ってまた調べさせる。かなり生活に困窮しているみたいで、自分の楽器を売ったか質屋にいれたみたいです、と。すると、そこでやっとブラウンは彼に電話する。「どうしてる? 戻りたいか?」 相手は「戻りたいです」と言う。そこで、ブラウンは以前の給料より安い値段でその男を再び雇い入れるのだ。ブラウンによれば、「余計な金をやると、ロクなことはない」という。すごいしめつけだ。

そういうこともあって、ブラウン・キャンプの人間は、出たり入ったりがひじょうに多い。一度クビになっても戻ってくることが繰り返される。まさにブラウン流ショー・ビジネスの掟だ。

これを聴いて、僕はジョージ・クリントンが同じようなボス的存在だということを感じた。そして、そのブラウンのミュージシャン掌握術が唯一きかなかったのが、ブッツィー・コリンズだという話をした。ブッツィーはクビになっても、若かったこともあり、また、シンシナティーでは実家に住んでいたこともあったのか経済的に困窮しなかったのか、あるいは、ミュージシャン仕事がすぐに次々入ってきたこともあってか、ブラウンの元には戻らなかった。それまでのブラウン・キャンプのミュージシャンより一世代若かったということも若干メンタリティー的に違ったのだろう。

■ ブラウンの教え

マーヴァも人に対するときに、ブラウンだったらこうするであろう、ということをやってくる、という。ブラウン仕込みということか。そして、マーヴァは、自分はブラウンからクビになったとは決して言わない。必ず「自分から辞めたんだ」と言うそうだ。

マーヴァは、一時期、往年のグループ、プラターズに入っていたこともあるという。松尾さんは、NHK-BSで『エンタテインメント・ニュース』の番組をやっていた頃、プラターズにインタヴューし、ライヴを渋谷公会堂でも見たことがある、という。たぶん、その中にマーヴァがいたような気がする、という。

「マーヴァは絶対同じライヴで、女性シンガーと一緒にやるのを嫌いましたね。同じショーでは、女性シンガーとは同じステージには立たなかった。相手の女性シンガーがどんな格下の新人でもね。で、言うんですよ、『リョー、お前、たとえばジョー・テックスと一緒のステージに出るか?』って。僕は、正直、ぜんぜん気にしないで出られるんですけど、その場では『いえ、出れません』って答えたんですけどね。(笑)」(中田さん) そのステージではあくまでワン・アンド・オンリーでなければプライドが許さないのだろう。

松尾さん。「まあ、いっときでも(マーヴァが)ジェームス・ブラウンの寵愛(ちょうあい)を受けたということは、私は一時期でも黒人音楽界のファースト・レイディーでもあった、と思ってるんでしょうね」

僕。「確かに。となると、マーヴァの中に、自分が落ち目という意識とかはぜんぜんないの?」 中田さん。「ぜんぜんありますよ。(笑) たとえば、グラディス・ナイトはええよなあ、一年365日、ラスヴェガスでショーができて~。あそこは家族でマネージメントやってるから、家族全員が潤って、金たくさん入って、あれは最高や、みたいに言ってます。おもしろいのは、アレサ・フランクリンとか、グラディスとかと、(自分を)基本的に並列に捉えてる。もちろんアレサが自分よりも歌がうまいということはわかってるんですよ。でも、それまでにいたるチャンスとかめぐり合わせとか、そういうのがいろいろあって、自分があそこまで行けたかどうかはわからんやけど、というのもあるんですよね。そうやって、(彼女たちと)並列に語るんで、そういうの聴いてると、僕もジェームス・ブラウンなれるのかって思っちゃったりもします(爆笑)」

(この項、もう少し続くかも)

■ マーヴァ・ホイットニー(オーサカ=モノレールと)

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■ マーヴァ・ホイットニー唯一の日本でのライヴ

April 22, 2006
Marva Whitney, Another James Brown Diva, Will Be Coming To Japan For The First Time
http://blog.soulsearchin.com/archives/000976.html

June 09, 2006
Marva Whitney: It's Her Thing, Waiting For The Day For 30+ Years
【マーヴァ・ホイットニー・ライヴ~30年以上待ちつづけたその日】
http://www.soulsearchin.com/soul-diary/archive/200606/2006_06_09.html
ライヴ評。

■ ソウル・ドレッシング(恵比寿)

http://www.souldressing.jp/

ENT>ESSAY>YMN Summit

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