2010年01月08日(金) 03時19分36秒 soulsearchinの投稿

◎『ソウル・ディープ』を見て~本当に黒人アーティストは1960年代に「クロスオーヴァー」を狙って

テーマ:ブログ
◎『ソウル・ディープ』を見て~本当に黒人アーティストは1960年代に「クロスオーヴァー」を狙っていたか

【"Soul Deep" On NHK-BS1~Are Black Musicians Really Trying To "Crossover" In The 60s?】

60周年。

2010年1月4日から6夜連続で、NHK-BS1で放送されている音楽ドキュメンタリー『ソウル・ディープ』。毎回ひとつのテーマを決めて50分にまとめているが、なかなかおもしろい出来だ。話題は尽きない。やはりモノクロでもソウル・シンガーが動いている映像は嬉しい。

とはいうものの、やはりテーマがテーマだけに、どうしても50分では収まりきらないところも多々出てくる。ちょっとソウルの歴史を紐解いたファンからすると、あれはどうした、ここはどうなった、みたいな点がところがふつふつとわきあがってくる。

ざっと言うと、1回目(1月4日)はレイ・チャールズおよびソウルの誕生、2回目(5日)はサム・クック、3回目(6日)はモータウン、4回目(7日)はスタックスおよびサザン・ソウル、この後、5回目がファンク、6回目がヒップホップとなっている。今、このドキュメンタリーを見て興味を持った方のために、さらに知りたければこんなのを読むとよいですよ、という参考文献をまとめているので、最終回終了後にでもブログにアップできると思う。現時点でもけっこうある。

考えてみると、それまで「レイス・ミュージック」(直訳は人種音楽、白人が黒人を蔑んでレイスと呼んだニュアンス)と呼ばれていた音楽が、ジェリー・ウェクスラーの発案で「リズム&ブルーズ」という名称になったのが、1949年。昨年で60周年だった。「モータウン50周年」は話題になったが、「R&B誕生60周年」はそういえば話題にならなかった。誰も気づかなかったのかなあ。(って僕も今やっと気づいたが(笑))

60年もあれば、その歴史は膨大な量になる。まさに近代史そのものだ。それを50分番組6本の計300分5時間ではそもそも無理なのかもしれない。それでも、こうした俯瞰した番組はたたき台としても絶対に必要だ。まずこうした基本中の基礎教養をみんなが知ったところから、次の話しが始まる。

オーティス。

たとえば、4日目のオーティスの話し。オーティスが「ドック・オブ・ザ・ベイ」について、クロッパーに「これは俺の初のナンバーワンヒットになる」と予言するくだりがあるが、あれには前に背景がある。1967年夏、モンタレーで1万人以上の聴衆の前、しかも多くの白人の前で歌った。ちょうどその時滞在していたサンフランシスコ湾の情景を歌にしていた。その同じ夏、オーティスは喉のポリープのために、手術をする。手術後6週間、まったく話すこともできず、彼は静かに過ごし、そのときにビートルズの『サージェント・ペパーズ』をこよなく聴いた。そして、作り上げたのが、それまでのシャウト唱法ではなく、しっとりと味わい深く歌う「ドック・オブ・ザ・ベイ」だった。白人聴衆の前で支持されたことによる自信、歌い方の劇的な変化、素晴らしい楽曲。これは彼のキャリアにとっての一大転機であり、まさに、生涯を決める「キャリア・ソング」となった。だから、彼はこの曲が「初めてのナンバーワンになる」と大きな自信を持ったのである。

多くの関係者や音楽業界人は、この「ドック・オブ・ザ・ベイ」が、オーティスが飛行機事故で死んだために全米1位になったと見ているが、僕はこれは飛行機事故がなくても、全米1位になったと見る。百歩譲って、事故がなくても1週間1位になったところが、事故があったために4週間1位になった、ということはあるかもしれない。

まあ、これは拙著『ソウル・サーチン』にすでに書いたことなのだが、改めて思い出したので、書いてみた。

ちなみに、『ソウル・サーチン』は既にお読みの方はご存知だと思うが、サム・クック、オーティス・レディング、マーヴィン・ゲイのストーリーはそれにかかわるアーティストの視点から描いている。サムは、ウーマック&ウーマック、オーティスは愛弟子ジョン・ホワイトヘッド、そして、マーヴィンは恩師ハーヴィー・フークワだ。現在絶版になっているが、ときおりヤフオクなどでも出ることがあるので、ぜひ興味ある方はチェックしてみてください。

『ソウル・サーチン』の中の7編のうち、4編は下記で読めます。
http://www.soulsearchin.com/soulsearchin/seven2.html

クロスオーヴァー。

ところで、モータウンやスタックスのところでさかんに黒人マーケットから白人マーケットへの「クロスオーヴァー」ということが語られる。ここは、結果的にはそうなっているのだが、みんな語っている人も、今だからそういう風に言ってるのではないか、と僕は感じている。

当時のモータウン関係者も、スタックス関係者も、音楽を作る時は「これを白人マーケットで売ろう」なんてほとんど考えていなかったと思う。よくベリー・ゴーディーが白人マーケットを狙ってモータウン・サウンドを作った、と言われる。僕もある時期そう思っていて、そういう原稿を書いたこともあるが、どうもそれは違うような気がしてきている。そもそも「クロスオーヴァー」という言葉自体が使われ始めたのが1970年代の中頃のことのはず。

それは、むしろ1970年代に入って、アメリカの音楽業界が「ブラック・ミュージック」と「白人音楽」をきっぱり分けるようになってからのことではないだろうか。ちょうどその頃からラジオ界のフォーマットが相当鮮明になり、ロックはロック、ブルーズはブルーズ、ソウルはソウル、ジャズはジャズ、カントリーはカントリー、そして、ヒット曲はトップ40となり始めた。もちろん1960年代にもそうした流れはあったが、1970年代に入って、おそらくFM局の浸透とともにそれが顕著になる。

そうしたラジオ界における分離政策が大きくなったために、ブラック・ミュージックは大きな成功を収めるためには「トップ40」へ(つまり白人マーケットへ)「クロスオーヴァー」しなければならなくなった。だから1970年代になってから「ブラック・チャート」から「トップ40」への「クロスオーヴァー」がより「命題化」してきたのだと思う。

1960年代から1970年代初期(1972~3年ごろ)までは、自然にソウルのヒットもトップ40に入ってきていた。その頃は「クロスオーヴァー」なんて概念もなく、いいソウル曲は、トップ40ラジオでかかり、そのチャートを上がっていたのだ。その顕著な例として1972年5月、ビルボードのホット100のベスト10が8曲もソウル・ヒットで占められたという事件がある。

もちろん、モータウンは1960年代中期からテレビ戦略を持ち、また白人が顧客のキャバレーなどに進出し、結果的に白人マーケットに入り込んだ。そこにはゴーディーの緻密な戦略はあった。だがそれとて、白人というより、単純に「マス・マーケット」(大きなマーケット)を狙っていたというニュアンスに思える。モータウンのサウンドを「白人的」というのは、実は当たっておらず、それを強いて言えば、南部のものと比べて「都会的」だということではないだろうか。「都会的」に「洗練」されていた、だから、白人層にも受けた、ということは言える。

だいたいビルボード誌は1963年10月から1965年1月まで1年3ヶ月ほど、「R&Bチャート」を掲載していない。その必要性がなかったと見ていた。それはトップ40でまかなえていたのである。その後ビルボードは「R&Bチャート」を復活させるので、この期間は、ビルボード史上最大の汚点となっているのだが。

この頃は、「いい曲」であれば、ヒットした。それは黒人であろうが、白人であろうが、ポップスとしてヒットしたのだ。モータウンがヒットしたのは、白人を狙ったからではなく、単純に「いい曲」を作り出せ、それを世に出し続けられたからだ。何よりも、その最大の証拠に、モータウンから出るシングルは、音楽の専門家だけでなく、オフィースで働く普通のスタッフも含めた「金曜朝の楽曲選定会議」(フライデイ・モーニング・ミーティング)の多数決で決めていたのだ。その会議場で、「これは白人向けだからヒットしそうだ」なんてことはテーマにさえならない。

ゴーディーはこう試す。Aという曲とBという曲、1ドル出して買いたいと思うのはどちらだ、と訊く。みんながAだと答える。ここからがゴーディーの真骨頂だ。「では、そのAというシングルと、腹が減ったときに1ドルを出してホットドッグを買うのとどちらを選ぶ?」 それでもAだと言われたシングルを、世に送り出す。会議のメンバーは、一般大衆を代表している。だから、そこで支持されたものがヒットする。

モータウンは白人マーケットを狙って、スタックスは黒人マーケットに絞った、という見方はイギリスでも、アメリカでも今では比較的定説になっており、この『ソウル・ディープ』でもその線で話が進められる。だが、今回『ソウル・ディープ』を見ていて、ひょっとして違うのではないかと思い始めた。少なくとも1960年代は違うのではないだろうか。もちろん1970年代以降は、白人向けのブラック・ミュージックというものは、若干だが存在するのだが。

ちょっと理屈っぽくなったが、このような発見があるだけでも、このシリーズはひじょうにおもしろい。続く2回も楽しみだ。みなさんもぜひチェックを。なお、これはNHKのアーカイブ番組に該当するとのことで、後日でも料金さえ払えば見ることができる。

番組ホームページ
http://www.nhk.or.jp/wdoc/

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コメント

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1 ■共感しました

今の所毎回は観れてませんが、面白い番組ですね。個人的には最終章のヒップホップの中のソウルが、どんな風に展開されるのか楽しみです。

白人受けを狙ったというお話に対するご意見、まったくその通りだと思います。モダンな音を狙ったというのがビンゴでしょうね。うがった見方をすると「白人受け」というのもちょっと差別的な考えかと。マイルスはフュージョンの先駆者と言われてますが、それも後付け。先進的な音楽を創りたかっただけですよね。白人に媚びようなんて思うわけがないですもんね。60年代ソウルの連中も「新しい音」を目指したのだと思います。乱文失礼しました。

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