2009年07月13日(月) 04時32分19秒 soulsearchinの投稿

●マイケルの急死を悼んで~マイケル・ジャクソンとメディアの戦い(パート2)

テーマ:マイケル・ジャクソン関連
●マイケルの急死を悼んで~マイケル・ジャクソンとメディアの戦い(パート2)

【マイケル・ジャクソンとメディアの戦い(パート2)】

現場。

1995年にリリースされた『ヒストリー』をじっくり久しぶりに聴いてみた。特に2枚目の『History Continues』サイドは強烈だ。「スクリーム」「ゼイ・ドント・ケア・アバウト・アス」「ディス・タイム・アラウンド」「D.S.」「チャイルドフッド(CDの表記はチャイルドフード)」「タブロイド・ジャンキー」と、マイケルのメディアに対する、これでもかというほどのメッセージが思い切り詰め込まれている。改めてこの作品のメッセージを読んで、この時期のマイケルの心の奥底がほんの少しだけでも垣間見られたような気がする。

しかも、これらのサウンドは、『スリラー』や『バッド』よりも、はるかに「黒い」。サウンドは黒く、メッセージは強く、マイケル・ジャクソンというアーティスト性はクインシー3部作(『オフ・ザ・ウォール』『スリラー』『バッド』)よりも、ひょっとして色濃く出ていたのかもしれない。しかし、ご存知のようにこれらの作品群はクインシー3部作と比べれば、それほど爆発的なベストセラーにはならなかった。それはあたかもマーヴィン・ゲイのもっともアーティスト性が反映したという『ヒア、マイ・ディア(離婚伝説)』が、それまでの作品ほど売れなかった、ということと重なる。

そもそもメディアというものは、一般的に言って、物事を深く追求し、本質を見ぬく力が弱い。もちろん一部に優れたジャーナリストがいて、優れたジャーナリズムを形成するものもあるが、そうしたことは珍しく、大体がその場しのぎで情報を集め、それをすぐに発表する。締め切りがあるから物理的にも仕方がない。新聞やテレビなど、数時間で集めたものをすぐに出す。言ってみれば「取って出し」状態なのだ。そこにまことしやかな嘘が紛れ込んでも、それを嘘と見抜く力はなかなかない。

しかも、ひとつのメディアが嘘を流してしまうと、それを信じた二次的なメディアがそれに輪をかけて報道し、偽情報がねずみ講式に広まってしまう。そうなったら、誰も何も止めることはできない。メディアの暴走が始まる。特にマイケル・ジャクソンに関しては、メディアは暴走を続け、真実に対する「免疫機能不全」に陥ってしまった。

僕は1980年代初期に見たマイケル対メディアの戦いで、メディアの表層的な部分を強く感じ、簡単にそうしたものを信じてはいけない、と思うようになった。

マイケル・ジャクソンという取材対象に、メディアが何かを書こうとしたとき、記者は何をするのだろうか。一番いいのは、本人に直接話を聞くことだ。これは文句なくベスト。だがマイケルのときのようにそれが出来ないときには、次に何をすべきか。

殺人課の刑事と同じく「現場百回」である。この場合の「現場」とは? それは彼が過去に語ったインタヴューの記録などもあるが、なんと言ってもレコード(CD)作品である。そこには、マイケル・ジャクソンの主義主張、信条が実によく現れている。特に、1990年代以降の作品にはそれが顕著だ。それをていねいに読み取っていくと、マイケルの心の片隅が我々にもわかってくる。

一例をあげよう。『ヒストリー』の中に、「D.S.」という曲がある。これは、「ドム・シェルドン」という名の冷酷な男のストーリーだ。ドム・シェルドンの頭文字(D.S)を取って、タイトルにした。これは、マイケル・ジャクソンに対し異常なほどの執念を燃やし、マイケルを有罪にしようとしたサンタバーバラの検事、トム・スネドンのことを歌っている。トム・スネドンを音の響きのよく似た別名のドム・シェルドンに変えているわけだ。「僕を捕まえるなら、手段を選ばないらしい。ドム・シェルドンは冷酷な男。どんなやり口を使っても、世間をあっと言わせたいんだ。KKK(黒人を差別する強烈な白人至上主義のグループ)とも関係があるのかな?」 トム・スネドンに対する気持ちを正直に吐露(とろ)している。これは氷山の一角だ。それぞれの曲にさまざまなストーリーがある。タブロイド紙を漁る前に、CDをじっくりお聴きなさい。DVDをゆっくり座って御覧なさい。そうすれば、ある程度の感性を持っていれば、彼がどれほど偉大なアーティストかわかるだろう。

果たして今回のマイケル・ジャクソン逝去関連記事を書いた記者の中に、じっくり「現場」を訪れた記者はいたのか。現在のところ僕も多数の記事を見てきたが、とても「現場」を取材したと思える記事にはお目にかかっていない。全体的に表層を見ただけで書いたものが多い。「現場」を取材することなくして、きちんとした記事など書けるわけがない。逆に言えば、「現場」など取材もせずに何かを書けてしまうほどの材料があふれているということだ。それほど、マイケル・ジャクソンという存在が大きかったのである。

メディアの暴走、メディアの免疫不全、そして、現場取材のなさ、これがマイケル・ジャクソン関連報道のがん細胞だ。

(マイケル・ジャクソン関連は続く予定)

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