NO.787 |
2004/09/25 (Sat) |
Why Does Roberta Flack Never Approve Her Duet Songs With Donny Hathaway? |
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『ソウル・サーチン・トーキング』で、ダニー・ハザウェイの未発表曲を含む『アンソロジー(ボックスセット)』の発売が2年以上遅れているという話をした。そして、その理由はそこに収録されるロバータ・フラックとのデュエットに関して、ロバータが発売を許可しないかららしい、という説明を加えた。僕は単純にも、ロバータが許可しないことに、「なんでだ、ずいぶんな人だなあ」などと思ってしまった。このアンソロジーがなかなか発売されないものだから、では別の編成で未発表曲を出そう、ということもあって、今年の『ライヴ! ディーズ・ソングス・フォー・ユー』が出た。 さて、なぜロバータがダニーとのデュエットの発売に許可を与えないのか。元々彼女は、自分自身の作品が、ヒットもののオムニバスなどに収録されることを嫌う人だった。最近よくあるベストヒット形式のオムニバスにもほとんどロバータの作品は使われていない。ロバータが自分自身の作品は、自身のアルバムの中でのみ発表されるべきだと考えているからだ。アルバム全体で作品ができているのだから、切り売りはしない、ということだ。これは見識としてリスペクトできる。 だが、ダニーのアンソロジーなら、他のアーティストとの混在もない。極めてシンプルかつ、ファンの要望も強いことは百も承知だろう。「他でもない、ダニーの作品なんだから、いいじゃないか」という気になる。では、なぜ。 『ソウル・サーチン・トーキング』にいらしたOさんが、その点について実にうまい説明をしてくれた。「大阪で2000年くらいだったか、彼女のライヴを見た時に、やはりダニーについてロバータがしゃべっていたことをはっきりと覚えている。英語はわからないので、正確に何て言っていたのかはわからないけれど、ロバータはものすごくダニーのことを愛していたんじゃないかと感じた。そのコメントにはものすごく愛があふれていたの。だから、私はそのことを吉岡さんに聞きたかったんです。あの二人はつきあっていたんですか」 「ダニーとロバータがつきあっていたかどうかは、わからないなあ。つきあっていたかもしれないし、ただ単純に音楽的な結びつきだけだったかもしれない」と僕。 「でも、あの二人はエッチしてるんじゃないかしら。そうじゃなきゃ、あれほど愛がほとばしるデュエットにはならないと思う。時々、デュエットでもまったく愛が感じられないものがあるでしょう。(笑) (ダニーとロバータは)仮にしていなくても、する寸前とか。彼らのデュエットには愛が間違いなくあるわ。吉岡さんが2002年にロバータがダニーのことを語った時のことを話したとき、『そうそう』と思った」 確かに二人のデュエットに愛はある。 「だからこそ、彼女はそのデュエットを外に出せないんじゃないかしら。世に出す、人前にさらすというのは、ものすごくパッションとエネルギーがいるでしょう。すごく大事なものは、逆にひけらかせないのよ。だからロバータの気持ちはよくわかる」 なるほど。79年1月のダニーの自殺という死はロバータにとってもはかりしれないほどの衝撃を与えたに違いない。それは今でもトラウマになっているかもしれないし、彼女自身がなんらかの後悔の念を持っているかもしれない。まさに彼女とのデュエットアルバムを作っている最中に、ダニーは自殺しているのだ。ロバータが直接彼の死に責任を負う必要はないにせよ、彼女自身は大きな負い目を持っているかもしれない。 となると、彼女があらゆるダニーとのデュエットソングを「封印」したいと思うことも自然なことだ。ひょっとしたら、遺言で自分が死んだら発売してもいい、などとしたためているかもしれない。 「大事なものほど、しまっておきたい」 ロバータの心の奥底にそういう気持ちがあるのだろう。ダニーとのデュエットというのは、ロバータにとって墓場まで自分だけで持っていきたい、極めてプレシャスな一点ものの豪華な宝石なのだ。それほど素晴らしい想い出。だから人前には出せないのだ。 『ソウル・サーチン・トーキング』の冒頭で紹介したロバータのインタヴューで、最後に一言彼女が言う。「ダニーのレガシーが今の若い人たちにも伝えられればいいと思う」 この後、すこし間があって、「私は生きているのにね」とぽつりと言った。やはり、彼女はダニーの死に対して、自分なりの責任というものを痛切に感じているのだ。その心の奥底は決して語られることはないだろうが、だが、この一言でダニーへの思いが世界中の誰よりも強いということに気がつかされた。 ダニー死して25年。四半世紀。だが、ロバータにとってはそれはまるで昨日の衝撃として生々しく心に刻まれているのだ。 |
Diary Archives by MASAHARU YOSHIOKA |