NO.743
2004/08/15 (Sun)
Talent Of Musicians VS Talent Of Listeners
対峙。

木下航志くんのライヴは1時間ちょっとだったが、邦楽洋楽とりまぜていろいろな曲を歌った。まだまだ試行錯誤の段階で、どういう曲が彼に本当にあうのか、どういう曲はあわないのか、未知数だが、それでも僕は個人的にはダニー・ハザウェイの3曲は「向いているなあ」と思ってしまう。それは僕がダニーなどのソウル系の音楽が好きだからという前提がある。だが、昨日のライヴを見に来たほとんどの人たちは、きっとダニー・ハザウェイなどのことを知る由もないだろう。逆に美空ひばりの曲のほうが受けるに違いない。このあたりのバランスの取り方がひじょうにむずかしい。

僕は、彼がこんご10年、20年とやっていく中で、まずはミュージシャン、アーティストとしてしっかりと地に足のついたことをやってほしい。だからいい楽曲を歌い、ヒット曲をだし、音楽で観客を集めて欲しい。

僕自身も「盲目の10代の少年」ということで彼を知ってしまったが、すぐにその音楽的許容量の広さに驚かされた。正直、今は「盲目の10代の少年」という事実が一人歩きして、彼の人気がブレイクしている。名が先にでてしまっていて、実がまだまだついてこない。

スティーヴィーが出始めたときも、モータウン社長ベリー・ゴーディーやスタッフはどうやって彼を売り出していいのかわからなかった。12歳の天才を売り出すために考えられたのは、1)先に盲目の天才シンガーとして人気を集めていたレイ・チャールズの名前を使うこと。その結果録音されたのが『トリビュート・トゥ・レイ・チャールズ』、2)ジャズスタンダードなどを歌うアルバム、当時モータウンはその手のアルバムをよくだした、3)そして、評判がよかった彼のライヴアルバムを作るというアイデアなどだ。いろいろ試行錯誤していたわけだ。結局、そのライヴの魅力が彼を大ブレイクさせることになる。

ライヴは、彼がライヴをやって観客を熱狂させていたので、その熱狂振りを録音してみようというあたりから始まった。すでにリトル・スティーヴィーは、彼の音楽で観客を熱狂させていた、という点が大きい。それは彼が盲目であるという以前に、ミュージシャンとしてすごい、歌がうまい、音楽の才能がある、そして、それを観客が充分に受け入れ、その音楽に反応しているということである。

リトル・コーシの場合、今のところ残念ながらそういう出方をしていない。テレビでドキュメンタリーが放送され、それで一挙に「彼の」人気に火がついているのだ。だから「彼の音楽」を聴きに来る人ももちろんいるだろうが、それ以上に「彼・本人」に会いに、彼を「見に」来る人が圧倒的だ。まだ、もの珍しさが先行しているのかもしれない。もちろん、最終的に彼の「人気」があがることは、CDの売り上げにつながるのだからいいのだろうが、一番の土台を固めておかないと足元をすくわれることになる。

だから、これは僕の勝手な意見に映るかもしれないが、例えば「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」のイントロのウォーリッツァーが響いた瞬間に「キャー」とか「オオッ」と叫ぶような観客の前で彼に歌わせてみたい。ミュージシャンはそうした観客の反応で、どんどん成長し、よくなっていくのである。

彼の音楽だけをなんらかの形で聞かせ、その他の付帯情報なしで興味を持った人たちだけを集めたライヴなんかをやってみたら、どうなるだろうか。実験としてはおもしろい。

リトル・コーシはたくさんのいい音楽を聴いて、吸収し、どんどんとミュージシャンとしての才能を開花させようとしている。それに対峙するには、僕たち観客側もたくさんの音楽を聴いて、聴く才能を磨いていかないといけないのだ。

ライヴ会場で素晴らしい奇跡のようなことが起こるのは、音楽をやる才能がずば抜けた人と、音楽を聴く才能がある観客が、出会い、スパークした瞬間である。もちろん将来、彼のライヴでそういうことが起こると僕は信じている。

(2004年8月13日金、下北沢440[フォーフォーティ]=木下航志ライヴ)

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Diary Archives by MASAHARU YOSHIOKA
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