NO.645 |
2004/05/16 (Sun) |
Every Seat Is Good Seat, Every Moment Has Good Tension, Every Song Has Its Own Colour |
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生の楽器をアンプを通さずに聴くということは、今の時代、とてもぜいたくなことだ。妹尾武さんのピアノコンサートは、彼が触れた鍵盤から力が伝わり、ピアノ線を叩き、その叩かれた音が、天井高ゆうに3メートルはあるだろう格調の高い会場に響く。どこからも彼の姿が見え、どこに座ってもピアノの音ははっきりと聴こえる。まさにすべての席がいい席(every seat is good seat)、王子ホールでのコンサート。 ピアノシモになると、紙を動かす音さえ響いてしまうほどの静寂が訪れる。音を出してはいけない、くしゃみをしてはいけない、咳払いをしてはいけない、携帯電話の音などもってのほか、などといった無言のプレッシャーが、観客に適度な緊張を与える。人は音や声が小さくなればなるほど、その音源に集中するものだ。妹尾さんのピアノも、実にうまく引いて、こちらの集中力を高める。すべての瞬間がいい緊張の瞬間。 今年1月に続く銀座王子ホールでのライヴ。今回強く思ったのが、妹尾さんのピアノを聴くととてもイマジネーションが広がるので、バックになんらかの映像などをつけたらどうだろうか、ということ。例えば、大人気曲「ニュー・シネマ・パラダイス」のバックで、その映画のシーンが映し出されたり、あるいは、「アパートの鍵貸します」の時に、そのシーンがバックに映し出されたら、女性客の目のハートの数も2倍、3倍になってしまい、ホール中にハートマークがあふれてしまうに違いない。 あるいは「材木座海岸」のバックで、材木座海岸の映像が流れたら・・・。彼が「材木座海岸」を弾いている時にPV(プロモーション・ヴィデオ)のアイデアを思いついた。材木座のいい場所を探し、一年間、カメラを固定して定点で映像を撮影し、春夏秋冬の材木座を曲と同じ長さの3分余にする、というもの。 しかし、この曲は数ある妹尾メロディーの傑作の中でも特に傑作だと思う。例えば、ジョー・サンプルの名刺代わりの一曲として「メロディーズ・オブ・ラヴ」があるように、ヘンリー・マンシーニに「ムーンリヴァー」があるように、ミッシェル・ルグランに「サマー・ノウズ」があるように、妹尾武にこの「材木座海岸」あり、となってもまったくおかしくない。もちろん、「キセキノハナ」や「永遠に」という超ビッグな名刺もあるのはわかっているのだが・・・。将来的にはいろいろ、七変化でこの「材木座海岸」を聴いてみたい。よく考えてみれば、ジョー・サンプルなど「メロディーズ・オブ・ラヴ」を4半世紀もほとんど毎回違うように弾いてきているのだ。 そして、この曲に限らず、彼が弾くメロディーにはどれにも映像がふんわりと浮かびあがってくる。すべての曲に、あらゆる映像。 今回は、司会ぶりもおもしろかった。いきなり、冒頭で「今回はちゃんと財布も置いてきて・・・」で大爆笑をつかんで、その後は、かけあいも含め実にいい味がでていた。 ところで、すいません、懺悔(ざんげ)があります。静寂の緊張の中で、膝の上に置いていた携帯を床に落してしまったのは僕です。一度、なんとか止めようとおもったのですが、結局でてしまったくしゃみをしたのも僕です。 今回はギターの天野清継(あまの・きよつぐ)さん、チェロの落合範久さんとのコラボレーションもヴァリエーションを出すという意味で、よかったと思う。そして、最後に「永遠に」を観客に歌わせたところは、やられた。しかも、女性ばかりなのでほとんど女性コーラス隊になって、しかもみんな歌えるときた。 月並みな表現だが、妹尾ピアノはやさしい、気持ちいい、癒される。次回は、材木座海岸に近い鎌倉プリンスですか。ロケーション、できすぎです。 すべての席がいい席。すべての瞬間がいい緊張の瞬間だった。そして、すべての曲にあらゆる映像があり、すべてのメロディーに色があった。 Setlist (incomplete) show started 18:06 1st set 1. 蒼茫 2.ニュー・シネマ・パラダイス 3.アパートの鍵貸します 4.港が見える丘 5.「彼女は死んじゃった。」メドレー 彼女は死んじゃった。テーマ〜星の灯篭 〜 5:55 6.メロディー 7.「花にまつわるエトセトラ」メドレー 花のまち〜枯れない花〜春よ来い〜赤いスイートピー 8. キセキノハナ 2nd set 9. キャニオン・ロード 〜 ハウ・インセンシティヴ 10.オーヴァージョイド 11.渚橋 12.最初から今まで 〜 「冬のソナタ」より 13.春にして君を想う 14.KYOTO (京都) 15.新大阪 16.材木座海岸 17.永遠に アンコール1. 爪痕 アンコール2. 浜辺の歌 アンコール3. 星霜 show ended 20:41 (2004年5月15日土曜日・銀座王子ホール=妹尾武ライヴ) ENT>MUSIC>LIVE>Senou, Takeshi |
Diary Archives by MASAHARU YOSHIOKA |