NO.597 |
2004/03/30 (Tue) |
Thin Line Between Caress And Whip: Michel Camilo Live |
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墨田区錦糸町にあるトリフォニー・ホールに初めて行った。うちからは遠いということと、演目がクラシック中心ゆえに行くチャンスがなかったが、今回はミシェル・カミロがたった一日だけここでやるというので出向いた。いやあ、それにしても基本的にクラシックのホールだが、すごい。正面に大きなパイプオルガン。ホールの天井高もゆうに10メートルはあるだろう。1階から3階まであり、2階3階の横にも座席がある。全体的に濃い木目で統一されていて実に荘厳だ。キャパは約2000。まずはこのホールの立派さに驚かされた。 正面ステージにぽつんとグランドピアノ。定刻から少し遅れてミシェル・カミロが舞台左手よりおもむろに登場。この日は一部がミシェルのソロ、二部がミシェルと新日本フィルハーモニー交響楽団との共演である。一音だした瞬間、「おっ、アンプ通さないのか」。 生のピアノの音が直接響く。しかし、さすがにここはコンサートホール。僕が座ったのは前から22列目ということで、キャパ300人のところで見るのとはわけが違う。音量が爆音でこない。少しだけ音が響いて、こちらに到達する。きっと、20世紀より前の音楽会はアンプなしでこんな風に開かれていたのだろう、と思った。今日のこのライヴは、「ライヴ」あるいは「コンサート」という言葉よりも、「音楽会」という言葉が似合っていた。 前回見たライヴは、トマティートとの共演だった。 http://www.soulsearchin.com/entertainment/music/live/michelle20001019.html 今回もやはり、鍵盤の上は嵐だった。しかも、かなり激しい嵐だった。 彼のパフォーマンスを見ていていろいろなことが思い浮かんだ。彼は、なぜこれほどまでに感情を爆発させることができるのか。どのようにして、感情の扉をここまで開くことができるのか。彼に激情のピアノを弾かせているその最大の原動力はなんなのか。そして、彼の音楽はクラシックなのか、ジャズなのか、ラテンなのか。もちろん、ジャンル分けなどというものは、もはや彼のような音楽には必要ないのだろう。音楽はその人を反映する。ということは、ミシェルは激情型の男なのか。ふと疑問に思った。 第一部のソロは、もちろん、トマティートとの共演同様、嵐の鍵盤にすごみも感じたが、会場の大きさゆえか、ミシェルまでに距離があったためか、感動まで至らなかった。ひょっとして目の前で見ていたらちがったかもしれない。 第一部が終って、二階のショップでコーヒーを飲んでいる間、ピアノが再び調律されている音がポロンポロンと聴こえてきた。嵐で荒れた鍵盤を整えているのだ。ステージにはフルオーケストラの椅子が用意されていた。クラシック好きの人がかつて、壮大なフルオーケストラの音色を聴くだけで泣きそうになるということを聞いたことがある。その意味がわかる時がある。この時の2部もそうだった。 壮大な30名以上のオーケストラが奏でるメロディーとミシェルのピアノのハーモニーは、第一部と同様にアンプはなくとも今度は圧倒的な音量で聴く側に迫ってきた。新日本フィルの指揮者は、十束尚宏(とつか・なおひろ)氏。彼が指揮をしているのだが、この空間を支配しているのは、ミシェルだった。10本の指とふたつの目で、彼は88の鍵盤と、何十人というオーケストラを自らの手足の如く操った。 たったひとりのソロと、壮大なオーケストラをバックにした演奏は、まさに対極に位置する。彼とオーケストラの演奏を聴いていると、ミシェルを通じて音楽の神様がここに降りてきているのではないかとさえ思えてきた。 オーケストラとともに演奏したのは既にCD化されている『ピアノとオーケストラのための協奏曲』の第1楽章から第3楽章まで。約30分。これが終ると万雷の拍手が巻き起こり、客席の多くの人たちが立ち上がった。長く続いた拍手を聴きながら、普段僕が行くライヴで聴く拍手と異質のものを感じた。それはクラシックの拍手なのか、コンサートホールにおけるジャズの拍手なのか。だが、演奏者に最大級の賛辞を送る拍手であることに変わりはない。そして、その拍手自体に、なにか熱いものを感じた。 それに答えてアンコールに登場したミシェルは、おもむろに「アランフェス協奏曲」を弾き、さらに、チック・コーリアの「スペイン」へとなだれ込んだ。激しくピアノを叩いたミシェルは、体全体でピアノと格闘していた。それはミシェルとピアノの激しく熱い戦いだった。アンコール3曲目の「トゥ・マッチ」という曲は実に美しい曲だった。今度は彼はピアノをやさしく愛撫した。愛撫と鞭、心の静寂と激情。静と動を自由に、激しく明るい晴天と嵐も自在に操るミシェル・カミロ。ひょっとしてその振幅の激しい熱い戦いに僕は胸を打たれたのかもしれない。 Setlist 2004.3.29 at Sumida Triphony Hall First set Performance started 19:06 1. From Within 2. Twilight Glow 3. Cocowalk 4. The Magic In You 5. At Night 6. Why Not 7. Caribe Performance ended 20:06 Second set Performance started 20.40 Concerto For Piano And Orchestra 1. Religiosamente -- Allegretto -- Allegro 2. Andante 3. Allegro Encore 1. Concierto De Aranjuez アランフェス協奏曲 (J.Rodrigo) 2. Spain (Chick Corea) 3. Too Much Performance ended 21:24 All songs written by Michel Camilo otherwise indicated. (2004年3月29日月曜=墨田トリフォニー・ホール、ミシェル・カミロ・コンサート) ENT>MUSIC>LIVE>Camilo, Michel |
Diary Archives by MASAHARU YOSHIOKA |