父。
昨日の「ソウルブレンズ」の同録を聴いていて、ふと、この「ホワッツ・ゴーイング・オン」の歌詞で発見したことがありました。
今まで、僕はこれをもちろん、いわゆる反戦ソングとして受け取っていました。
反戦ソングが狭ければ、反暴力を訴える曲とでも言えばいいでしょうか。
自分で、このアルバムには、様々な確執と戦いが表れていると解説していて、
そして、この曲を聴いたとき、「ファーザー、ファーザー・・・」の歌詞のくだりが妙に僕のソウルに訴えかけてきたのです。
直訳的な意味はこうです。
「父よ、父よ。僕達(の確執を)そんなにエスカレートさせることはない。
わかるでしょう。戦いは、答えではないんだ。
唯一愛だけが、この憎しみを征服できるんだ。わかるでしょう。僕達は、なんらかの愛を導く道を探さなければならない。
デモ隊のピケライン、スローガンを掲げる看板。
僕に暴力を振るって罰を与えるのはやめてくれ。
(体罰を与えないでくれ)
僕に、(心を開いて)話し掛けてくれ。
そうすれば、あなたにもわかるだろう。
今一体何が、僕とあなたの間に起こっているかが。」
この節の頭が、ファーザー、ファーザーと呼びかけて始まります。
曲の冒頭が母よ、母よ、で始まり、さらに、兄弟よ(同朋よ、仲間よ)でつながり、そして、父よ、父よ、になる。
非常にうまく構成されています。
もちろん、第一義的に、戦争は答えではない、戦争をエスカレートさせる必要はない、と解釈できます。
しかし、一方で、マーヴィンと実父には大変な確執がありました。
マーヴィンは、父親から子供の頃に暴力的虐待を受けて、父親のことが大嫌いだった。
父親も、他の兄弟と違って自分の言うことをきかないマーヴィンを嫌った。
そこで、この歌詞の父を「一般的な父」ではなく、彼自身の「実の父親」と考えて読んでみると、
彼自身のパーソナルな叫びが見事にうかびあがるではありませんか。
30年もこの曲を聴いてきて、しかもしたり顔で解説なんかまでしちゃってきているのに、
なんで今まで気が付かなかったんだろう。
「don't punish me with brutality(僕に体罰を与えないでくれ)」この一行だけで、
マーヴィンの実父への強烈な叫びだということがわかります。そして、
「talk to me, so you can see what's going on」となる。
息子と対話をしない父に、もっとはなしかけてくれよ、と言っているわけです。
そうすれば、二人の間にある深い溝が少しは理解できるのではないか、と思うわけです。ここでいうwhat's going onは
父と息子(マーヴィン)の間の状況を指すわけですね。
「ホワッツ・ゴーイング・オン」は、彼の父親へのメッセージでもあったのです。
つまり、曲自体がダブルミーニングを持っていた、ということになるわけです。
反戦、反暴力を訴えながら、自分の父親へ向けて「息子にもっと話しかけてくれ。
体罰を与えないでくれ」と直訴しているわけですから。
マーヴィンは翌72年に「ピース・オブ・クレイ」というやはり父へのメッセージソングを録音します。
しかし、これは結局発売されることなく、お蔵入りしてしまいます。
彼の作品をもっと詳細に研究するともっと、このような曲がでてくるかもしれませんね。
マーヴィンがこのアルバムをして、「戦いがいつ終わるか、僕自身が知りたいくらいだ。
その戦いとは、自分のソウル(魂)の中の戦いだ」と言った意味の一端が垣間見られたような気がします。
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