三重眼。
ひとつの現象を裏と表で見る。それがダブルサイド・レヴューなら、このダンスショウは、ひとつのレンズで3つの絵が見える特殊レンズを通して見ているライヴのようだ。
ロンドンで演じられ、人気を集めたダンス・ライヴ・ショウ『プレイ・ウィズアウト・ワーズ』。これを演出・監督しているのが、ロンドンで注目の振付師マシュー・ボーン。トークショウを含むマチネを見た。
僕はこのあたりにはまったく知識がなく、たまたまダンサーのソウルメイトTに強力に勧められたので行ったのだが、一言で言うとクラシックダンスとモダンダンスの中間的な雰囲気。そして、タイトル通り、演技者(つまりは、ダンサー)のセリフは一切ない。ストーリーを知るために、会場に着くなりパンフレットを買い求めた。
簡単に言えば、イギリスの青年貴族アンソニーとそのフィアンセ、グレンダ、そしてアンソニーのところにいる召使いたちの物語。イギリスは階級社会が厳しく、その階級間には越えられない溝があるが、それが男女間の性によって崩れていくという展開だ。二部構成で、特に第二幕のセンシュアルなシーンは息をのむ。
そして、このプレイのもっとも特徴的な点が、一人の役を3人が同時に演じるということだ。アンソニー役も、グレンダ役も、召使い役も、みな3人いる。つまり、一人の違う心模様を複数の演技者が同時に演じる。しかも、そこに時差もある。アンソニーのある瞬間の心模様をAが演じているのと同時に、Bが少しその後の心模様を演じていたりするのだ。
最初一役3人というのが、どういう風になるのかまったく見当がつかなかったが、舞台を見れば、その違いが一目瞭然だった。なるほど、としかいいようがない。
これは、1963年の映画『召使』を見たマシュー・ボーン監督が、それにインスパイアーされて作った作品。したがって雰囲気が60年代の空気になっている。
この日はショウが終わり、出演者たちのトークショウがあった。観客との質疑応答もあったが、「この作品を2度以上見ている人」という質問に、20人位の人が挙手をしたのには驚いた。かなりコアなファンがいるようだ。
質問の中でおもしろかったのは、とあるシーンについてのこと。そのシーンとは、一人が洋服を脱ぎ、もう一人が洋服を着るという部分。この二人が同時にやる。一人はスーツを着ていて、徐々に洋服を召使に脱がされ最後下着一枚になる。一方もう一人は、下着一枚から徐々に洋服が着せられていく。これを同時進行でやるというおもしろい演出だ。そして、洋服を脱いだ方がシャワーに入るのだが、その時、彼は靴下を履いたままシャワーに行くのは、なぜか、という質問だった。
この質問には出演者、会場からも笑いが漏れた。答えは「それがイギリス式なんだ(笑)」というジョークから、「出演者の足が臭いんでね(笑)」といった答えもでたが、なかなかおもしろいやりとりだった。
しかし、一人の役を3人が演じるというこのアイデアは、ひじょうにおもしろい。それと音楽は5人組のバンドが生演奏していた。
(7月25日まで。公式ウェッブ↓)
http://pww.jp/index2.html
(2004年7月15日木曜、シアター・コクーン=ダンスショウ『プレイ・ウィズアウト・ワーズ』)
ENT>LIVE>DANCE>Play Without Words