琴線。
まさか自分がキャンディ・ステイトンのアルバムを紹介するとは夢にも思わなかった。(笑) キャンディ・ステイトンは、南部を中心に60年代から70年代に初期に活躍したいわゆる「サザン・ソウルを歌うレディー・ソウル」。「レディー・ソウル」は、女性のソウルシンガーのこと。76年に、「ヤング・ハーツ・ラン・フリー」というディスコヒットがあるが、元々はゴスペルを歌っていた人でサザン・ソウル・シンガーとして知られる人物である。ところが、76年のそのディスコヒット以来、しばらくダンス曲をだしていたが、その後、元のゴスペルに戻り、地味に地元でゴスペルを歌っていた。ただその「ヤング・・・」がクラブなどでリミックスが注目を集めたりしていた。
昨日、「山野ミュージックジャム」で紹介したのは、ステイトンの60年代後期から70年代初期にかけての作品群。この頃、彼女はフェイム・レコードというレコード会社に所属していた。フェイム・レコードは、南部アラバマ州マスルショールズという街にあったレコード会社。元々はフェイム・スタジオをやっていた白人のリック・ホールという人物が、ただスタジオだけやっていてもおもしろくない、というので、有望なシンガーを見つけてはレコーディングして、インディで発売するようになった小さなレコード会社である。キャンディ・ステイトンはそんな中で見出されたシンガーのひとりだった。
キャンディは元々ゴスペルを歌っていたが、実に歌心があるソウルシンガーで、その優しさ、包容力、フレンドリーな態度など好感度の高いシンガーだった。そして、彼女はここフェイムでアルバムを3枚録音し、ヒット曲もだすが、契約の関係で長い間CDが発売されていなかった。70年代に一度、日本のPヴァインからアナログが発売されていた時期があったが、もちろん当時はCDなどというものはなかった。
僕は、ずっと輸入盤のオリジナルで聴いていたが、このところすっかりごぶさたしていた。そのフェイム時代の作品がCD化されなかったのは、原盤の権利所有者であるリック・ホールが許可をださなかったためだといわれる。それは、このフェイム盤はひじょうに人気があり、世界各地で海賊盤が出回り、それに嫌気がさしたホールが正規盤の発売を許可しなかったのではないか、などと言われている。ところが、最近になってホールがその原盤の権利をEMIに売却した。そこで、いよいよ『昔のお宝音源』が日の目を見ることになり、その日本盤が堂々と発売されることになったわけだ。
タイトルは、『ベスト・オブ・キャンディ・ステイトン』(東芝EMI、TOCP66924)。70年代初期のよきサザン・ソウルの響きが伝わってくる。サザン・ソウルは、日本人の心の琴線にもっとも触れる種類のソウル・ミュージックで、それはおそらく日本の演歌などと、一番の奥底でつながっているからなのだろう。生活感にあふれた歌詞、やさしい温かみのあるメロディー。そして、ゴスペルに根ざした熱い歌唱。カントリーのもつ、ほんわかしたところをも内包してしまうサザン・ソウルはやはり、リアル・ミュージックだ。
ちなみに東芝EMIからでた日本盤は、ライナーが最近のインタヴューを中心にした原稿(林剛氏)に、鈴木啓志さんのフェイム以前の詳細なストーリーの2本立て、これにフェイム時代のディスコグラフィー、さらに英文ライナーノーツとその対訳、歌詞およびその対訳と完璧なブックレット(40ぺージ)になっている。最近の日本盤でここまで充実したブックレットは久しぶりに見た。しかも、さらにCCCDでないというところもポイントアップ! もろ手をあげて応援します。(笑)
アル・グリーン、ジョス・ストーン、ハワード・テイト(彼については書こうと思ってますが、まだ書けてませんね)、そして、このキャンディ・ステイトンと、21世紀のサザン・ソウルが揃った。これを機にどんどんこの時代のものが掘り起されるといいですねえ。
レディー・ソウルはあなたの心を直撃し、サザン・ソウルは、あなたのソウルにぐいぐい来ます。