ニューオーリンズ。
ミスター・サンプルの真後ろでその指先を見た。時々、目にもとまらぬ早さで指が動いていた。
彼の曲の解説はおもしろい。ほとんど毎回演奏する「Xマークス・ザ・スポット」では、ニューオーリンズにいたヴードゥー教(ブードゥー教)の女王マリー・ラヴォーについて語る。「ニューオーリンズに来たら、マリー・ラヴォーの墓参りに行きなさい。そして、彼女の墓石にXのマークをつけるんだ。そうしないと、東京に帰ってきて悪いことが起こるよ。(笑) 僕なんか、もう何百もX印をつけてきた(笑)」
マリー・ラヴォーについてちょっと調べてみた。1794年か1796年生まれ、1881年6月16日に87歳で死去したと言われる。いくつかの人種の混血。生地は様々な説がある。当初はヘアドレッサーというから髪の毛を切る仕事、今で言う美容師をしていた。そしていつしかヴードゥー教を学び、その後彼女は長い間ヴードゥー教のクイーンとして君臨した。ヴードゥー教は、アフリカを起源にハイチを経由してニューオーリンズにはいってきた宗教で、呪いをかけるとそれが実現するという種類のもの。数奇な人生を送ったマリー・ラヴォーは、ヴードゥー・クイーンとして、さまざまな伝説を残した、という。当時、ニューオーリンズでは一般的な宗教よりもこのヴードゥーのほうが市民に対して大きな影響力を持っていたらしい。
ニューオーリンズという土地は1718年から1762年までフランスが統治、さらにその後1803年までスペイン領だった。一時期フランスが取り返すもののまもなくアメリカに。ニューオーリンズに残るヨーロッパの香り、あるいはフレンチクォーターはその名残だ。そして、ジョー・サンプルはとりわけニュー・オーリンズに思い入れが強いようだ。かつては、同地にあるザディゴというジャンルの音楽も演奏したことがある。
彼の曲の解説はおもしろい。アンコールで珍しい曲を演奏した。アルバム『サンプル・ディス』に収録されている「シュリヴポート・ストンプス」という作品だが、これについて彼はマイクを持ってこう説明した。「この曲は第一次世界大戦の前に書かれた曲だ。ジェリー・ロール・モートンという古いピアニストが1921年か22年頃に書いた作品。彼は自分がジャズを始めたと言っている人物でもある。そのジェリーの作品『シュリヴポート・ストンプス』」
ジェリー・ロール・モートンについてちょっと調べてみた。1890年10月20日ニューオーリンズ生まれ。1941年7月10日ロスアンジェルスで50歳で死去。10歳頃からピアノを弾き始め、1900年代にはいると、それまでのニューオーリンズ・タイプのラグタイム風のピアノから発展してジャズ風のアレンジを聞かせるようになった。10代の頃はピアノでは食べられなかったので、ギャンブルをしたり、ビリヤードをしたり、時にはピンプ(ポン引き)などもしていた、という。1920年代に入るとレコーディングをするようになった。
当時は78回転のレコードだったので、一枚に3分程度しか録音できなかったが、ジェリーはその中で起承転結をつけた楽曲を録音していた。以前購入していたピアノばかりを集めたCD40枚組の中に彼の作品だけを集めた1枚があった。ニューオーリンズ風、ラグタイム風ののりのいい作品群だった。ジョー・サンプルがこうしたピアノを聴いて影響を受けたのがよくわかる。
ジェリーは、かなり革新的で現在では実際よりも評価が低いグレイト・ミュージシャンとして認知されているが、当時は個性的な性格のためか回りのミュージシャンとぶつかることが多く、晩年はあまりミュージシャンとして恵まれてはいなかったようだ。
さて、ジョーが2000年のジョージ・ベンソンのアルバムのために書いた曲を演奏した。これはジョー自身は自分名義では録音していない。あるいは、バート・バカラックの作品「ア・ハウス・イズ・ノット・ア・ホーム」は、かなりムーディーな雰囲気。一方アンコール一曲前の、本編最後の曲となった「カーメル」は、イントロ部分に自由なインプロヴィゼーションをいれ、「カーメル」に突入した。このあたりの作品のいじり方は自由自在だ。
ミスター・サンプルの真後ろでピアノを聴いた。アンプとスピーカーからの音だけでなく、目の前のピアノから直接音が聴こえてきた。
Setlist (2nd set)
show started 21:31
1. The Texas Two Step (“The Pecan Tree” – 2002)
2. Spellbound (“The Spellbound” – 1989)
3. One On One (George Benson “Absolute Benson” – 2000)
4. A House Is Not A Home (“Invitation” – 1993)
5. More Beautiful Each Day (“Carmel” – 1979)
6. The Song Lives On (“The Song Lives On” – 1999)
7. X Marks The Spot (“The Pecan Tree” – 2002)
8. Ashes To Ashes (“Ashes To Ashes” – 1990)
9. Street Life (Crusaders, “Street Life” – 1979 / Joe Sample, “The Song Lives On” – 1999)
10. Carmel (“Carmel” – 1979)
Encore. Shreveport Stomps (From “Sample This” – 1997)
show ended 22:51
(2004年5月6日木曜・東京ブルーノート・セカンド=ジョー・サンプル・ライヴ)
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