一期一会。
背中を眺めつつ、斜め後ろから彼の指の動きを見つめる。ピアノが客席に対して直角ではなく、若干斜めに置かれているので、舞台左手のあたりだと、ピアニストの手の動きがよく見える。特に右手の動きは目前で、左手も、右側に移動するときはよく見える。その華麗な動きを見ているだけで、気持ちよくなってくる。そして背中の主は、ジョー・サンプル。
その手と腕の動きは、水面(みなも)を跳ねる魚のよう。時に、飛び、そして、水の中を自由自在に泳ぐ。水の中を優雅に泳ぐその手の動きは無駄がなく美しい。体全体は実に大きくゆれるが、腕のあたりにクッションがはいっているかの如く、鍵盤に指先が触れる瞬間、すっと力が抜けて、絶妙のソフトタッチが生まれる。そこからサンプル独特のピアノタッチが響く。
前回の来日(2003年12月)は、まったくのジョー・サンプルひとりのソロピアノだったが、今回はアコースティック・ベース(ジェイ・アンダーソン)とドラムス(アダム・ナスバウム)を従えてのトリオ。正直に言うと今回のドラムスは、僕はジョーとあっているように思えなかった。
ミュージシャンがユニットとして音楽を作る場合、「ひとつのイメージの共有」が必要だ。しかし、ドラムスとジョー・サンプルがひとつのイメージを共有しているようには思えなかった。ミュージシャンはある程度自己主張がなければならない。個性が生まれないからだ。しかし、自己主張するだけではコラボレートにならない。まず、相手に耳を傾け、聴かなければならない。この場合、ジョー・サンプルのピアノをじっくり聴き、ジョーのピアノのソウルをつかまなければならない。どうも、そうした作業がなされていたとは思えない。順番が回ってきて、そこでただソロを思い切り叩くだけでは観客を満足させることはできないのだ。トリオのミュージシャンがいるなら、そこで音楽の力学は正三角形を描かなければならない。というわけで、トリオとしては若干の不満をもったが、ジョーのピアノには満足した。
最後の曲「カーメル」を終えて、ステージを降りるジョーに一人の女性が何かをささやいた。アンコールに戻ってきたジョーは、その女性を指してこう言った。「このレディーが、『メロディーズ・オブ・ラヴ』を聴きたがってるんだ。ただ、これだけ(今まで)僕が強く弾いてしまったので、このピアノはもう音が少しずれている。でも、やってみよう」
そして、ジョーひとりでゆったりとした「メロディーズ・オブ・ラヴ」が始まった。レコードとも違う、毎回どこかが違う「メロディーズ・オブ・ラヴ」。それは今日限りの「メロディーズ・オブ・ラヴ」、まさに一期一会のメロディー。
Setlist Second Set
(title of the song /album/album released year)
show started 21:01
1. The Texas Two Step (The Pecan Tree – 2002)
2. Rainbow Seeker ( Rainbow Seeker – 1978)
3. Souly Creole (Old Places, Old Faces – 1995)
4. The Pecan Tree (The Pecan Tree – 2002)
5. Memories (The Pecan Tree – 2002)
6. X Marks The Spot (Marie Laveau) (The Pecan Tree – 2002)
7. Chain Reaction (Crusaders, Chain Reaction – 1975)
8. Django (Invitation – 1993)
9. Street Life (Crusaders, Street Life – 1979 / Joe Sample, The Song Lives On – 1999)
10. Carmel (Carmel – 1979)
Encore Melodies Of Love (Rainbow Seeker – 1978)
show ended 22:26
(2004年5月4日火曜・東京ブルーノート・セカンド=ジョー・サンプル・ライヴ)
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