再来。
それにしても、よく雰囲気が似てるなあ。それがこのフランク・マッコムのニューアルバム『ザ・トゥルース』を聴いての感想だ。誰に似てるって、ダニー・ハザウェイに。フランク・マッコムは、元々ジャズ・フュージョンのブランフォード・マルサリスのサイドプロジェクト、「バックショット・ルフォンク」というグループのリード・ヴォーカルだった人。その関係で2000年に1枚CBSからソロアルバム『ラヴ・ストーリーズ』http://www.allmusic.com/cg/amg.dll?p=amg&uid=UIDMISS70311061515161479&sql=Att5j8qc9btz4 を出した。その後、CBSとは切れ、このほどインディから発売したのがこの『ザ・トゥルース』(トイズ・ファクトリー、2004年2月18日発売)。イギリスのソウルレーベル、エクスパンションから2003年7月にリリースされたもの。アメリカではまだでていないようだ。
オーガニック・ソウルのアーティストとして、一足先にイギリスからはドニー(Donnie)というアーティストが注目されているが、このフランクもそのドニーと同様、雰囲気のあるシンガーだ。このアルバムにはゲストにビリー・プレストン(ハモンド3オルガン)、元ルーファスのボビー・ワトソン、サンフランシスコから注目株の女性シンガー、レデシー、元メイズのキーボード、ウェイン・リンゼイなども参加している。
全体的なトーンは、まさに70年代初期のソウルの雰囲気。ダニー・ハザウェイ、70年代初期のスティーヴィーあたりの空気感を持っている。生音で、生楽器で。ピアノとヴァイオリンをバックにしっとりと歌う6曲目の「ホエン・ユー・コール・マイ・ネーム」あたりは、今が混迷の2004年であることを忘れさせてくれる。こういうのを、懐古趣味ではなく、コピーものではなく、良質の音楽というんだろうな。8曲目の「キューピッドズ・アロウ」など、ダニー・ハザウェイそのままだ。ピアノを弾きながら、帽子を被っているジャケット写真も、どこかダニーを意識したイメージフォトか。しかし、ここまでダニー調でいいのだろうか。きっと、多くのライターは、このフランク・マッコムというシンガーを、「ダニー・ハザウェイに似た」とか「ダニーの再来」と書くことだろう。では自分のアイデンティティーは? と僕はちょっと疑問に思った。しかし、彼のウェッブの彼自身のインタヴューを読んで納得した。
http://www.frankmccombmusic.com/findex.html
フランクは言う。「みな、僕が1970年生まれというとびっくりするんだ。僕は、5歳の時に、クリーヴランドのバプティスト教会に育って、自分が将来何をしたいかわかっていたんだ。5歳の時だよ。僕の将来の目標は、シンプルな歌を歌うことだ、と。(To sing a simple song) 15歳の時には、もうすでに10年のキャリアがあったわけだよ。教会で歌い、うちで歌い、ラジオにあわせて歌い、それで周囲の連中を驚かせた。こいつはなんでこんなに若いのにこれほどの(音楽的)ヴォキャブラリーを持っているのか、とね」 16歳のジョス・ストーンを知った今、15歳で彼のような才能がでてきても、もう驚かない。(笑)
彼はルードボーイズ(ジェラルド・リヴァートがプロデュースしたR&Bグループ)のツアー音楽ディレクターとなり、まもなくフィラデルフィアに本拠を移す。そして、彼は今度はフィラデルフィア・ソウルの歴史と遭遇する。それは、309サウス・ボード・ストリート。フィラデルフィア・サウンドの重鎮であり立役者であるケニー・ギャンブル&レオン・ハフが今オフィースを持つ場所だ。そこで、レオン・ハフが使っていた同じピアノを使って、彼は次々と曲を書いた。ひょっとしたら、それはオージェイズの「バックスタバーズ」のピアノのアレンジを考えたものと同じピアノだったかもしれない。
フランクはこう宣言する。「つまり、真似と影響を受けるということの間には厳然とした一線があるということだ。僕が心を打たれる声を聴く時、そのことを真摯に勉強し吸収しようと思う。アレサ、スティーヴィー、レイ・チャールズ、ビリー・プレストン、ダニー・ハザウェイ、ナタリー・コール…。もし彼らに影響を受けたというなら、その事実をしっかり自分で受け止めなければならない。隠すわけにはいかないのだ。そして、そうしたアーティストたちが本当に自分へインスパイアーした(影響を与えた)のなら、自分自身の作品におけるその影響を祝福すればいいだけのことなのだ」
そして、彼はジョージ・ベンソンから言われた一言を決して忘れないという。ちょうどフランクは自分がダニーなどに似ているとしょっちゅう言われていて悩んでいた時期だった。その時、ジョージは彼にこう言った。「フランク、いいか、誰かに過去の偉人に似ていると言われても、ただそれを受け入れ、走りつづけるんだ」 そして、フランクは言う。「そう、それ以来、僕はフォーレスト・ガンプのように走りつづけているのさ」 彼は真似と影響の違いがわかっている。だから、聴くこちら側も、単なる真似、コピーではないということが感じられるのだろう。彼は走りつづけることによって、ソウル・サーチンの答えを見出すことができるのである。
クリーヴランド、フィリー、ロンドン、そして、東京へ。フランク・マッコムは今日も走りつづける。
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フランク・マッコム初来日
はやくも来日決定。4月15日(木)、16日(金)、17日(土)、18日(日)。横浜モーションブルー。問い合わせ 045-226-1919.チケット2月21日から発売。5250円。
http://www.motionblue.co.jp/schedule/2004/04/index.html
ENT>MUSIC>STORY>McComb, Frank