ランデヴー。
「ホワット・ユー・ウォント・ドゥ・フォー・ラヴ(風のシルエット)」がアメリカでヒットし始めたのは1978年10月からのこと。日本にはその輸入盤アルバムが同年暮れに入った。日本盤がCBSソニーから発売されるのは79年3月。79年の夏は六本木あたりに現れ始めたカフェバーなるもので、こうしたボビーやボズ・スキャッグスなどの聴きやすくメロディアスな作品がアルバム単位でプレイされるようになっていた。原宿のメロディーハウスや青山のパイドパイパー・ハウス(ともに当時流行っていた輸入盤専門店)では、日本盤が出る前に爆発的に売れていた。
それらの音楽は日本ではまもなく「AOR」という言葉で語られるようになる。アダルト・オリエンテッド・ロック、すなわち大人向けロックという意味だ。アメリカで「AOR」というとアルバム・オリエンテッド・ロックなのだが、いつしか日本ではAORは、こうしたボズやボビーなどのサウンドを指すようになった。サーファーが好きそうなタイプの音楽ということで、サーファー・サウンド的な受け入れられ方もした。
「風のシルエット」は90年代に入って、アリーヤ、モナリサ、グル、2パックなど多数のヒップホップ系アーティストたちによってサンプリングされ、一部のサビのメロディーは大変浸透度が高くなっている。そして、「風のシルエット」がでてから4半世紀、90年代にはいって何度も来日し根強い人気を持っているボビー・コールドウェルが再び超満員のブルーノートに登場した。僕が彼のライヴを見るのは79年の初来日と90年のパーラメントでのライヴ以来だと思う。
アンコールを含めて12曲、70分。メロディアスな作品群は、観客を70年代後半から80年代初期に連れ戻す。もっともヒットした頃には聴いていない新しい世代にとっては、新鮮な音楽に映る。すっかり日本通の彼は、曲間で時折日本語を交える。
カヴァー曲がおもしろかった。ディオンヌ・ワーウィックなどでおなじみのバカラックたちの名作「ウォーク・オン・バイ」、エモーションズの大ヒット「ドント・アスク・マイ・ネイバーズ」、アーロン・ネヴィルの「テル・イット・ライク・イット・イズ」など、けっこうボビー節になっていた。声もしっかりよくでていた。あの顔が誰か有名人に似ているような気がしたが、思い浮かばなかった。
やはり一番受けていたのは「風のシルエット」だった。「風のシルエット」というシングルの邦題もすごいが、このアルバムの邦題もすごい。それは『イブニング・スキャンダル』! そして、お宝発掘だあ! 79年頭に日本のレコード会社が作ったチラシの文句はこうだ!
「シルエットは揺れ動く、スキャンダラスな夜、今夜はトロピカル・ランデヴーとシャレてみようぜ!」
どうだ! トロピカルっていう言葉も、かなり死語ですねえ。(笑) ランデヴーは、デートのこと。でも、このアルバムはたくさん売れて、ボビーは一躍人気洋楽アーティストになった。今夜の会場のカップルは、トロピカル・ランデヴーとシャレてみたかな。
Artist: Bobby Caldwell
WHAT YOU WON’T DO FOR LOVE
Bobby Caldwell
I guess you wonder where I’ve been
I searched to find a love within
I came back to let you know
Got a thing for you and I can’t let go
My friends wonder what is wrong with me
Well I’m in a daze from your love, you see
I came back to let you know
Got a thing for you and I can’t let go
Some people go around the world for love
But they may never find what they dream of
What you won’t do, do for love
You’ve tried everything but you don’t give up
In my world only you makes me do
For love what I would not do
But then I only want the best it’s true
They can’t believe the things I do for you
What you won’t do, do for love
You’ve tried everything but you don’t give up
In my world, only you makes me do
For love what I would not do
Makes me do for love what I would not do
+++++
(2003年11月3日月曜ファースト・東京ブルーノート=ボビー・コールドウェル・ライヴ)
ENT>MUSIC>LIVE>Caldwell, Bobby
タイトル・トロピカル・ランデヴーの夜