DJ。
ドン・トレイシーのことを覚えてらっしゃる方がいましたか。そうでしたねえ。朝方だったですね、放送時間。ただ放送時間はずいぶん、昼夜変更になりました。ドンと僕が親しくなったのは、80年前後だったか、彼が日本にやってきて、そのときどこかのフリーペーパー用にインタヴューしたのがきっかけでした。話もおもしろく、まあ、意気投合したというか。その取材の後も東京を案内したりして、親しくなりました。
その後彼が1-2度来日したような記憶があります。いつも赤坂東急ホテルに滞在していました。そして、僕がロスに行ったときなど、まあ一回は会う感じになりました。彼が当時DJをやっていたKDAYというのは、AM局なんですが、いわゆるブラック、ソウル、R&Bのステーション。しかも、AMなのに、ロスでかなり初期からラップをたくさんかけていたぎんぎんに黒いラジオ局でした。その後フォーマットがカントリーかなにかに変わってしまい、今はブラックではないはずです。
ドン・トレイシーはFENのソウルショウのDJを何年も勤めました。彼の番組の場合テーマ曲は、なし。いきなり一曲目から始まります。しかしエンディングテーマがありました。 later lovers! (じゃあね、みんな) と言って毎日かかるのが、リズムヘリテージのインスト曲「シーム・フロム・SWAT(スワットのテーマ)」でした。
東京のFENで放送されていた番組は、なんとテープではなく、番組が録音されプレスされた30センチのLPだったのです。これを初めて知ったときには、びっくりしました。時々、レコード盤なので、番組の針が飛ぶのです。普通の曲がかかっている時に飛べば、ああ、レコードが飛んだな、ということがわかりますが、実はDJのしゃべりも何度も同じところが繰り返されたりしたこともあるんです。声が何度も同じことを言って、飛んでるのには笑いました。そして、その頃、東京のFENを見学に行く機会があり、そこで番組はほとんどLPになって送られてきている、という説明を受けました。よって、ドン・トレイシーのDJ自体そのものが、ターンテーブル(The Wheels Of Steel)の上にあったわけです。
さて、東京のFENには、毎週5枚の30センチアルバムが本部から送られてきます。片面に約27-8分、番組が録音されたLPです。表と裏で55分の番組がパッケージになっています。たしか、ある日の前半でかかる曲が7曲あるとすると、その同じ曲が翌日の後半にそっくりそのままかかっていました。最初は気がつかなかったのですが、自分でこの番組でかかる曲目をノートに書き写すようになって、ふと前日の前半と次の日の後半が同じ選曲だということに気が付いたのです。あれはいつまでそうだったかなあ。大好きな番組だったから、かかさず聞いていました。
ドンはあの番組を週に一回、ハリウッドにあったモータウンが入っていたビルと同じビルの中にあるスタジオで録音していました。一回で5本分だったと思う。その録音スタジオにも遊びに行きました。小さなスタジオで、エンジニア一人とドンの二人ですべてをやっていました。レコードは、ドンが自分でターンテーブルを回していました。そのマスターテープを米軍に納品し、そこで、世界各国用にLP盤がプレスされ、配られ、そして、世界各国でオンエアされていたわけです。
ドンは家の倉庫に、自分の番組のレコード盤を全部とってありました。1日1枚で数年分あったので、千枚単位だったと思う。ものすごい量でした。たしか記念に1枚もらったような気がしますが、はたして、どこに行ったのか。かなり貴重ですね。
ドン・トレイシーのDJは、AM系、のりのいいブラザー系のDJでした。そして、FENにはもうひとり対照的な実に渋いソウルDJがいました。ローランド・バイナムです。バイナムの話は、また明日にしましょうか。
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