デビュー。
ウルフマンジャックは、まさに伝説のDJですが、彼が『アメリカン・グラフィティー』の中で放送していた放送局というのは、いわゆるワンマンスタジオでやっていました。DJひとりが曲をかけ、しゃべり、CMをだし、というのをすべてひとりでやることができるスタジオです。放送局自体も小さい。でも、アンテナはでかい。
で、その昔、FEN(当時)で「ドン・トレイシー・ショウ」というソウル番組を毎日やっていたロス在住のDJドン・トレイシーと縁あって仲良くなり、彼がDJをしているロスのラジオ局KDAYのスタジオを見学することになりました。指定された住所を捜すと、なんだか、山の中のな~~んにもなさそうなところだった。
山道をどんどん登っていくと、ど~~んとたか~~~いアンテナが立っていた。そしてその横に小さな一階建ての木造の家があって、それが放送局だった。ラジオ局はみな、小高い山の上にあるみたいです。都心にある場合は、アンテナは別のところにおいてある場合もありますが。
まさにウルフマンの放送局みたいで、その外観だけで、感動した。扉をあけてくと、ほんと誰もいなくて、さらに中にはいっていくと、ドンがひとりでDJをしていた。あの瞬間は映画の中のカートみたいだった。「やあ、よく来たな・・・」みたいなやりとりがあって、しばらく、彼の仕事ぶりを見ていました。
ほんとうにワンマンスタイルで、曲をかけ、しゃべり、CMをだし、ジングルをだし、そして、そうそう、キューシート(オンエアした曲を時刻、曲名、アーティスト名をすべて書いた紙)も手書きで書いてた。もうその様が、ウルフマンとダブリましたねえ。「へえ、アメリカの放送局ってみんな、こんななんだ」って思いました。
すると、そのドンがいきなり、「何かマイクでしゃべれ」と突然言い出したんですね。えええっ? 英語しゃべれないよ。焦ったんですが、「日本語でもいいじゃないか」と言うので、意を決して、一言しゃべりました。確か「みなさん、こんにちは、あなたがお聞きの放送局は、KDAYロスアンジェルスです」なんてことをもちろん日本語で言ったような気がします。聴いていた人はびっくりしただろうなあ。
ドンが「マサハル、今日が君のレイディオ・デビューだな。ははは」と言い、そのときの同録カセットをくれました。同録テープは、そこではエンドレステープが回ってるんですね。それから、彼の仕事が終わり、ドンの家に行くと、奥さんが「マサハル、you were on the air, today(オンエアしてたわね、今日)。聴いたわよ」といきなり言ってきて、てれました。
しかし、ホントに気楽なものです。ディレクターもいないし、プロデューサーもいないし、いいなあ、ああいう放送局。あの体験以来、僕の夢は自分の好きな曲ばかりをかけられる放送局を持つことです。83年8月のことでした。『アメリカン・グラフィティー』のウルフマンのシーンを見るたびに、僕はあのドンとKDAYのスタジオのことを思い出します。