■【無声映画『メトロポリス』に日野皓正、オマー・エドワーズの即興ライヴ】
圧巻。
1926年(昭和元年)に当時としては破格の予算で製作された無声映画『メトロポリス』は、SF映画の原点、傑作として映画関係者の間で高く評価されてきたが、その映像に、ジャズ界のカリスマ日野皓正と魂のタップ・ダンサー、オマー・エドワーズの即興的ライヴ演奏を共演させるという前代未聞のイヴェントが2009年3月20日から22日まで3日間、横浜のランドマーク・ホールで行われた。
この案内をもらってすぐに本ブログでもご紹介したが(2009年1月28日付け)、3日間全部見たいと思ったほど。なによりもオマーがこういう映像をバックに何をやるのか、そして、日野さんがどんな演奏を聴かせるのか、毎日、そのパフォーマンスは違うのか、などあらゆる点で興味をそそられたからだ。
始まる20分くらいまえに着いて楽屋に行くと、なんとまだオマーは来ていなかった。すると、奥にプロデューサーの立川直樹さんがいらっしゃったので話を聞いた。こんなことどうやって思いついたんですか。「いやあ、なんか思いついちゃったんだよ。以前ね、日野さんでチャップリンの映画のバックをやってもらったことがあって、あれはあれでまあ、よかったんだけど」というと、横の日野さんが「ちょっと甘かったけどね…。でも、これ(今回のもの)はいい」と。立川さん。「それでこのランドマークのプロデューサーに何かコラボレーションはできないかと相談されたときに、映画と日野さんとオマーを結びつけることを思いついたんだ」 このフィルムはかなりきれいになってるんですか。「なってる、劇場にかけても問題ないよ。デジタル処理されてるんだ。で、かなり復元されてきれいになったものを借りてきてね。これをドイツとかヨーロッパにもってきたいね」
僕はもちろんこの映画は見たことがない。ミュンヘンのジョルジオがこの映画のマニアでフィルムを集め、サントラ風のものを作ったのはおぼろげに知っていたが、実際のものは知らなかった。今回使用したものは2002年にデジタル編集されたものだそうだ。
舞台左に日野皓正クインテット、正面と舞台右に一段高くなってタップ台。正面にスクリーン。6分ほど押して暗転。日野皓正クインテットの演奏が始まると、スクリーンにフィルム上映。フィルムにはドイツ語の文字が出て、その日本語訳字幕が出る。最初の説明があり、本編にはいると、そのモノクロの映像の前にオマー・エドワーズがおもむろに登場。オマー用、バンドメンバー用にも映像が見えるようモニターが置いてある。オマーは、大きなスクリーンを見ながらタップを踏むが、これが見事。ちょうど何十人という工場労働者風の人たちが列を成して歩いていくシーンがあるのだが、そこにオマーが効果音を重ねるがごとくタップを踏む。もうこれは無声映画ではない。有声映画、有音映画といっていい。映像もクリーン。イメージが膨らむ映像だ。しかし、こんな未来を描いた映像が83年も前に製作されていたなんて、『2001年宇宙の旅』も真っ青だ。
冒頭の5分を見ただけでやられた。映像に音が生で演奏され、タップが生でやられ、一体どこにフォーカスしてみればいいのだろう。こっちも見たい、あっちも見たい。目が三つ欲しい。かつて無声映画にはその語り部たる弁士がいた。いま、この21世紀、日野皓正とオマー・エドワーズは見事にこの『メトロポリス』の弁士になっている。三位一体とはまさにこのこと。
これを見ていて思ったのは、日野皓正とオマーのコラボレーションだけでも十分おもしろいということだ。この『メトロポリス』があると、どうしても演奏もタップもある程度の枠組みができてしまい、自由度に限界がでてしまう。だが、もし映像がなく日野皓正の演奏とオマーのタップだけだったら、ジャズのアドリブのような完璧なインプロヴィゼーションができると思う。日野オマーのコール&レスポンスも、なんでもありだ。このセットだったら、たとえば90分程度のものにして、5曲くらいセットリストをつくっておいて、オマーの演目に日野さんがアドリブで演奏をつけるもの、逆に日野さんの演奏曲にオマーがアドリブで演奏をつけるものなどをやればとてもスリリングなものになると思う。
オマーがスクリーンを見ながらタップをするところなど、本当に圧巻だ。10分もしないうちに、彼の背中の半分くらいに汗がにじみ出ていた。
日野さんは、「これは一ヶ月くらいやってみたい」と言っていたそうだが、なるほど、ぜひお願いしたい。それにしても3日間、キャパ400席(しっかり映像が見えるように階段状の座席を組んである)完売というからランドマーク・ホール、すごい集客力。一月くらいはできそうな感じがした。
ただ一点戸惑ったのが、途中ですばらしい演奏やパフォーマンスがあっても、どうやって拍手すればいいのかわからなかった。なかなかできない…。(笑)これが日野&オマー・即興ライヴだったら、途中でいくらでも歓声やら拍手が巻き起こるのだろうが。
再演強く希望です。
■ オマー、日野皓正、過去関連記事
August 18, 2006
Hino Terumasa Talks: Hino Legend Is Here To Stay
【日野伝説かくありき】
http://blog.soulsearchin.com/archives/001208.html
↑これは、おもしろいです!
October 23, 2008
Omar Is Rhythm, Omar Is Music, Omar Is Singer: We Hear Omar’s Songs
【オマーのタップからオマーの歌が聴こえてくる】
http://blog.soulsearchin.com/archives/2008_10_23.html
October 25, 2008
Omar Edwards Talks (Part 2) : After The Dance
【オマー、電撃的タップ・ダンスの後に語る】
http://blog.soulsearchin.com/archives/2008_10_25.html
October 26, 2008
Omar Edwards (Part 3) : Talks About His Life: I Am Soul Dancer
【オマー(パート3)、人生を語る】
http://blog.soulsearchin.com/archives/2008_10_26.html
これは4パートの中でも、特にいいストーリーだ。
October 27, 2008
Omar (Part 4): I Am Singing, Space Is Most Important Thing
【オマー・エドワーズ(パート4)~足と体で歌うオマー】
http://blog.soulsearchin.com/archives/2008_10_27.html
タップ・ダンサー、オマー・エドワーズ一連の4部作。読み応えたっぷり。
January 28, 2009
Omar Will Be Coming To Japan March To Collaborate With Hino Terumasa
http://blog.soulsearchin.com/archives/2009_01_28.html
■ メンバー
日野皓正(トランペット)、多田誠司(サックス)、石井彰(ピアノ)、金沢英明(ベース)、和丸(ドラムス)、オマー・エドワーズ(タップ)
(2009年22日日曜、横浜ランドマーク・ホール=日野皓正、オマー・エドワーズ、映画『メトロポリス』ライヴ)
ENT>MUSIC>LIVE>Hino, Terumasa / Edwards, Omar
ENT>MOVIE>Metropoli
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