○【文化の日の贈り物~39年前の録音から】
タイム・カプセル。
先日、郵便物の中にCDらしきものが入っているパッケージがあった。通常のレコード会社から来るものとはちょっとちがっていて、その裏には個人の名前と住所が書かれていた。「また、売り込みのCDかな」と思ったのだが、何か気になってすぐに封を開けた。
すると手書きのメモとCDが1枚はいっていた。それを見て腰を抜かした。手書きのメモは、中等部(中学)時代の同級生西村さんからで、中学3年生のときにみんなでやった演劇の録音がCD化されてはいっていたのだ。メモにはこう書いてあった。
「先日クラス会があり、8月に亡くなった古阪君主演の聴耳頭巾(ききみみ・ずきん)の録音がみつかったので皆さんにお渡ししました。あなたのナレーションも入ってます。よかったら聞いてください。一緒に効果をやった太一も先日亡くなりました。」 太一は、先日訃報を書いた村上太一さんだ。
CDには「木下順二作・放送劇・昔話聴耳頭巾」、昭和44年(1969年)11月3日(月) 幼稚舎自尊館にて とある。すぐにCDプレイヤーにいれた。ピアノの音、効果音、そして、ナレーション。こ、こ、これが僕? 覚えてない…。(苦笑) 必死に記憶の糸を手繰り寄せ、フルスロットルで記憶頭脳を再生しようとするが、何がなんだか思い出せない。しかし、主演の古阪君の声はしっかり覚えている。ナレーションで出演者、スタッフらの名前が次々と紹介されるのだが、もちろん、知っている名前ばかりだ。だが、覚えてない名前もある、同じクラスではない人の名前もある気がする。しかし、クラス変えで同クラスになったのかもしれないがよくわからない。(謎)
次々と疑問が頭を駆け巡る。そもそもなんで、こんな音質のいいものが残っていたのか。マイクはきちんとしたオンマイクで、舞台を遠目のマイクで拾ったものではない。その頃、ピンマイクなんてあるわけないので、このクリアな音はなんだ。それから効果音。明らかに放送劇である。ナレーションのクレジットで「効果、吉岡正晴、西村昭、村上太一」と読まれている。(読んでいる) 太一と西村さんと一緒に効果音を作ったんだ。そうか、作ったかもしれない…。(謎)
鳥のさえずり、水の流れる音、風の音、まさに放送劇の効果音だ。しかし、自尊館でやったとなると、舞台なのかなあ。(謎)
39年前の中学3年生たちが集まって作ったものなのだが、主演の古阪君がけっこううまいのだ。それだけでなく出演者がみなうまい。どうなってるんだろう。(謎)
いくら考えてもわからない。メールアドレスが書いてあったので、さっそくメールをしてみた。翌日すぐに返事がきた。衝撃でした。それはまさに39年前へのタイム・スリップだった。
そのメールによるとこうだ。中等部では毎年11月の文化の日に、「演劇の会」というのをやっていた。各学年の有志が集まり、いろいろな劇を演じるというもので、クラスを超えて集まり、稽古をして、当日発表するというイヴェントだった。そして、このCDはそのときの録音だという。
1年生の時に「まねし小僧」(主演は古阪君)、2年が「ベニスの商人」(シャイロック役が古阪君)、3年で「聴耳頭巾」(主演・古阪君)だった。古阪君は毎年何かやっていたんだ。だが、別に演劇部だったわけではない、という。しかも、この「聴耳頭巾」がすごい。何がすごいかって、これを放送劇として、舞台の上でやったというのだ。西村さん曰く、三谷幸喜の『ラジオの時間』(1993年)に先駆けること24年の斬新なアイデアでした、という。これは、当時の国語の先生、仲井さんの発案だったそうだ。それですべてが合点が行く。
僕たちは効果音を作り、放送劇をやった。それを舞台の上で舞台劇としてやったが、放送劇なのでマイクが舞台に何本もあり、それを録音していたものを、西村さんがキープしていて今回日の目を見たわけだ。彼は7インチのオープンリールで保存されていたものを、自分でカセットにコピーし、ずっと保存していたという。彼もずっとオープンリールの機械を持っていたが、以前に処分した。僕も同じだ。また、一度に全員の親御さんが入らないので、午前、午後と2回公演をしたそうだ。2回公演! すごい。(笑) 録音は午後の部のもの。冒頭のピアノはどうやらありもののレコードを使ったらしいが、最後のエレクトーンは鈴木(平尾)美智子さんが弾いているそうだ。
感無量。
西村さんは書く。「中等部の放送室で、いろんな効果音を作りました。木の上を歩く音は、校庭から木の枝を集めてきてこすり合わせ、風の音は、3人が交代で息をマイクに吹きかけて録音したものをテープの再生速度を落として作りました。水の流れる音は、トイレにマイクを持っていって作りました。吉岡さんは当日、調整室で冒頭と終了のナレーションを喋りました。終了後の打ち上げで、東急文化会館のピザ屋に行き、『あの、ナレーションよかったわね』と女子たち(言い回しが古い!)が、あなたに言っていたのを、よく覚えています。」(驚)
僕はまったく覚えていません。(笑) しかし、よく覚えてるなあ。すごい。すごい。風の音、口でやって、テープ速度を落とした? なんで、そんなこと知ってるんだ。(謎)
徐々に記憶が蘇る。国語の仲井さん(先生)、幼稚舎、クラスを超えてのイヴェント…。僕はその劇が終わった後に、なぜか仲井さんに褒められたことだけうっすら覚えてる。何かを片付けていた時の些細なことだ。子供は褒められたことを覚えているものなのか。(単純)
効果音を作ったこと、かろうじて覚えてるかも。でも、ナレーションしたことは完璧に覚えてない。打ち上げに行ったことも覚えてない。もちろん褒められたこともまったく覚えてない。子供は褒められても覚えていないものもある。(単純)
ま、とにかく、ないないずくしである。しかし、第三者の証言があるのだから、そして、証拠の音(!)もあるのだから、僕はみんなとそれらをやったことに間違いはない。効果音を作ったのはわかるが、なんでナレーションなんかやったんだろう。それに、そもそも中学生が打ち上げで渋谷のピザ屋に行くのか。(笑) いや、行ったんだね。証人がいるんだから。行ったんだ。(無理やり納得)
放送劇は約32分。冒頭、耳を凝らすと「キュー」という声が入っている。それからピアノの音、ナレーションへつながる。エンディングを向かえ、劇が終わると、エレクトーンの演奏、拍手がきて、ナレーションが入っていた。「これで本日の演劇の会を終わります。指示に従って退場してください」 僕かなあ。…僕ですね。僕の声だ…。証拠が残ってるんだから。声変わり中なのか、風邪ひいてるのか、なんか変な声。
きっと、その頃、ブログなんてものがあったら、事細かに書いてただろうなあ。(笑) 39年前へのタイム・トリップ。ちょうど文化の日。まさに僕にとっての「文化の日の贈り物」。タイム・カプセルを開けた日だ。感無量だ。ありがとうございます、西村さん。そして、改めて古阪英之君のご冥福をお祈りする。
■ 村上太一さんの訃報
October 16, 2008
Bits & Pieces : Gold Concert, Murakami Taichi…
http://blog.soulsearchin.com/archives/002704.html
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