●ワックスポエティックス誌アンドレ・トレス編集長語る~パート1

●【ワックスポエティックス誌アンドレ・トレス編集長語る~パート1】
2001年12月ニューヨークで創刊された音楽誌「ワックスポエティックス」の日本版が2008年10月27日発売された。「ワックスポエティックス」誌はヒップホップ系DJらが使うレコードの元ネタにあたるアーティストらのレコードや、そのアーティスト自身への取材記事などで編集されたマニアックな音楽誌。広く浅くではなく、アーティストを絞り込み、深く入り込んだ記事に定評がある。日本版発売記念パーティーが代官山ユニットで31日に行われ、そこに編集長アンドレ・トレスらが参加。そのアンドレから短い時間だったが30分ほど話を聴いた。
■ レコード盤に囲まれて
レコード収集。
アンドレ・トレスは1969年4月26日ニューヨーク生まれ。現在39歳。実年齢より若く見える。父はブロンクスでジャズ、ラテン、ソウルなどを扱うレコード店を経営していた。幼少の頃、一家でフロリダへ移住。大学を卒業するまで、フロリダにいた。DJなどに興味を持ったのがこの頃だ。
代官山ユニットのカフェでウィルキンソン・ジンジャーエールのドライを飲みながら、トレスが早口で語る。「僕の父が以前レコード店をやっていたんで身近にレコードはいつもたくさんあった。子供のころ、ニューヨークからフロリダに引っ越すとき、全部置いていったんだが、(フロリダに)引越してきたら祖父がまたたくさんのレコードを持っていた。だから僕はいつもレコードに囲まれて生きてきたってことになる。(笑) 1990年代初めに(フロリダの)大学に入るまでは、それほどレコード収集に執着はしてなかった。入ってからかな、いろいろと興味を持ち始めたのは。大学の(校内放送の)テレビ局でヒップホップのビデオ・ショーをやっていたこともある。ニューヨークのヒップホップの歴史的なもの、『Bボーイ』『ヒップホップ』『グラフィティー』『ラップ』『ブレイクダンス』などをフロリダの子供たちに紹介していた。今考えてみると、その頃から僕は音楽の歴史的なものに興味があったみたいだね」
横には、今回DJのためにニューヨークからやってきたDJコンとDJアミールがいる。彼らご一行は木曜に来日、金曜にイヴェントに出演しDJをして朝までクラブにいて、土曜日昼帰る。2泊4日の強行軍だ。
そのころDJパーティーなどでレコードを回すようになったり、ブレイク・ビーツを作ったり、そのレコードを作ったりし始めるようになった。ただ毎週どこかでやるレギュラーDJというわけではなかった。頼まれたらやるという感じだ。
そして1995年、ニューヨークに戻ってきた。アンドレ26歳。アンドレが言う。「ニューヨークはヒップホップの歴史そのものみたいだろう。レコード・コレクターもたくさんいる。そして、みんな知識もある。今ではインターネットでいろいろ知ることができるが、その頃はそうではなかった。今はインターネットのおかげで、世界中ありとあらゆるところに住んでいる連中が、同じことに興味を持ったり、情報を共有できる。おそらく1995年や1990年にこの雑誌を作ろうとしたら、きっと、時期尚早だったと思う。1995年96年のころは、ニューヨークでヒップホップが変化してきた時期だ。ヒップホップがおそろしくポピュラーなものになってきていた。パフ・ダディー…。僕が知っていた古いヒップホップはもはや、なくなっていたんだ。そこで2000年になって、そうした変化のあとを受けて、今こそ雑誌を始めるときだと思ったんだ」
それより少し前、1998年、彼はコンピューターのソフトウェア会社に就職、ソフトウェアを販売するセールスマンとなった。仕事は次第に単調になり、ちょっと退屈になり始めていた。2000年頃になると、趣味のDJなどのほうがおもしろくなってくる。
ドキュメンタリー。
「2000年ごろだった。自分が好きなレコード、興味があるレコード、アーティストについてのドキュメンタリー映画でも作ろうと思いついたんだ。レコードを掘る(diggin=レコード箱を漁ること。古レコード屋などで昔の珍しいレコードなどを漁ること)連中とその周辺のカルチャーにもスポットを当てたドキュメンタリーだ。そこで、いろいろ調べていくうちに、自分が興味を持っているアーティストに関する書物や資料があまりないことに気づいた。それこそ、バーンズ&ノーブル(書店)に行っても、ローリング・ストーンズやビートルズに関する本はたくさんあるのに、ジェームス・ブラウンやスライ・ストーン、そのほかのR&Bシンガーに関する本はほとんどない。だから、僕はレコードのライナーノーツを読むくらいしか(情報入手の)方法がなかった。今言ったメインのアーティスト(の単行本)はあることはあるが、マイナーなアーティストについてはほとんど紙に印刷された資料はないんだ。そこで、そういうアーティストについていろいろな情報が書かれている雑誌があればいいのにと思うようになったんだ」
「レコードを収集し始めていた連中にとってロック、ディスコ、ソウルの初期の作品は、ヒップホップのファンデーション(基本、基礎)となったものだ。それから、サンプリングの手法がでてきた。昔の曲のリサイクルの始まりだ。そこで、僕たちはそうしたアーティスト、サンプリングされるオリジナルのアーティストにフォーカスして記事を作りたいと考えた。僕たちはソウル、ファンク、ジャズの古いレコードをヒップホップのレコードを通じて知ることになったんだ。だからのその元のアーティストについての記事を書くということだ」
「僕もDJをするとき、R&Bや古い曲をかけていた。新しいヒップホップの曲で使われていたオリジナル曲をかけると、みんなはよく知っているフレーズの一部だけでなく、全部を聴ける。すると子供たちが興味を持つ。そこでオリジナルも聴くといいよと教えることができるわけだ」
一体彼はどれくらいのレコードを持っているのだろうか。「ある時期は買って買って買いまくるっていう時期があって、5000枚くらいにはなっていたと思う。だがよく使うレコード、そうでないレコードと、2枚あるものは処分したりして、絞り込んで、最近は3000枚くらいかな。彼ら(コン&アミール)ほどじゃないよ。彼らはヘヴィーだよ(レコード中毒が重症だ、の意味)(笑)」
音楽、特にヒップホップに熱中するようになった彼は、その元ネタの音楽にも興味を持つようになる。ジェームス・ブラウン、ハービー・ハンコック、クール&ザ・ギャング、ロイ・エアーズ、ダニー・ハサウェイ…。そこで、自身で雑誌を作ることを真剣に、現実的に考え始める。2001年にはいってのことだ。
(この項続く)
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