舌雅。
読み方は、「たんまさ」。4月始めに小冊子が送られてきた。高校時代の同窓生向けに年1回発行される雑誌で、これが2号目だった。表紙は歌舞伎の市川右近さん。A4版40ページ程度の薄い雑誌なのだが、ぱらぱらとめくっているうちに、一枚の写真にひっかかった。
それはヤマハの全面広告だった。男の人が居酒屋風のところで楽しそうにギターを弾いている写真。コピーは、「ブルースが好きで好きで習い始めた。もう一杯、いやもう一曲いかがですか?」 広告の狙いは音楽好きのみなさん、ギターでも習い始めましょう、というものだ。しかし、僕が惹かれたのは、コピーもさながら、その彼の後ろの壁に貼られていた一枚のポスターだった。
「Club Paradise, O.V.Wright…Little Eddie Wright…」 明らかにアメリカ南部の小さなライヴハウスのライヴ告知ポスターだ。O.V.ライトのポスターを貼るとは、むむ、これは・・・。お主、何者ぞ。この店に行きたい、と当然思う。ところが、店の名前、住所電話番号などがまったく書かれていない。よく見ると、「平尾雅和・牛たん料理店店主、四十四歳、続・音楽時代はじまる。」と書いてある。だが、店名は? ヤマハの音楽レッスンの広告なので、その案内は書かれているのだが。
そして、目を皿のようにして何度もその写真を見ていると、右端のほうに、一枚の紙が貼られている。「炭火牛たん焼、舌雅(たんまさ) 目黒鷹番」 ええ~~? これが店の名前なのかなあ。しかし手がかりがこれだけだ。店の看板というか、こんなところに張らないだろう。でも、店紹介データを載せないかわりに、この看板のような一枚の紙をここに貼ったのかとも思い、ネットで検索してみた。
すると出てきた。はい。舌雅。目黒・鷹番。間違いなし。住所、電話番号、確認。そうかあ。ソウル牛タン屋か・・・。いや、ブルーズ牛タン屋か。
そして、それから一ヶ月余。行く機会が訪れた。「ゲロッパ」の試写の帰り。そこで会った人たちに声をかけた。「ちょっと、鷹番の面白そうな牛タン屋行かない?」 さすがに住宅街にあったので、なかなか探せなかったが、匂いでわかるというか、あれじゃないの、というちょうちん風の店を発見。
引き戸をあけて中に入ると、カウンター10席だけの小さな店。そして、あのポスターが貼ってあった。広告と位置は違ってたが。きっと、撮影用に場所を変えたんだろう。そして、主人もあの写真に映っていたその人だった。われわれが入ると席すべてがふさがってしまった。主人一人が次々と注文をさばいているが、それぞれに丁寧な仕事をしているためか、なかなかゆっくりしたペースだ。一人で10人のオーダーをこなすのは、かなり大変だ。こちらも、ゆっくり構えることにする。
まずはパリパリ浅漬け。うまい。牛タン、うまかった。ゆでたタン、タン塩。豆腐よう。鮭のハラス焼。うまい。どれもていねいな仕事がしてある。豆腐ようなどは、そのまま仕入れているそうだが。(笑) ゴーヤのさっと炒め、あたりめ、う~ん、思い出すだけでも、また食べたくなる。パリパリ浅漬けなんて、店にはいってまず頼み、後半でもう一度頼んでしまった。牛タン、しっかりした厚みがあり、味がある。これはまた食べたくなる。
この日は食することができなかったが、シチューもある。そこで、パンもある。となりのカップルがシチューを頼んでいて、それをじ~っと見ていたら、声をかけられた。「これ、おいしいんですよ」 「そ、そうみたいですね。次回、絶対頼みます」 非常に質の高い牛タンという感じがした。焼酎も30本近く種類がある。主人は次々と料理と飲み物を作るのに忙しいので、やたらと話し掛けるのがはばかられたが、それでも何か声をかければ、誠実に答えてくれる。
かすかに流れるBGMは、ばりばりのブルーズ。やっぱりねえ、ポスター見て、想像はした。マスターに尋ねた。このBGMは? 「あ、これ、有線なんです」 おっと、有線でしたかあ。しかし、この店で、ポスター以上に僕の目を点にしたのが、チェスなどの7インチシングルを数枚ほど壁に直接貼ってあったところ。マニアックだ。2000年6月オープンで、まもなく3周年。
死ぬほど食べてひとり約3500円。帰り際に「ショップカードありますか?」と尋ねると、「あなた様のご多幸を心より祈って。舌雅、ご縁袋」という名刺大の小さな袋をもらった。手渡された瞬間、袋の中に硬いものがあるのを知った。指先が5円玉の存在を教えてくれた。
O.V.ライトに導かれた隠れ家的牛タン屋さん。O.Vに感謝!
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『O.V.ライトに導かれた牛タンレストラン』
店名・舌雅 (たんまさ)(炭火牛たん焼き)
住所・東京都目黒区鷹番3丁目19-11
電話・03-5704-8262
定休・日曜
営業・18時から午前1時まで。カウンター10席。
東横線学芸大学駅・西口から西口商店街を
駒沢通りのほうに向かい、とみん銀行先の角を右折。
すぐ右側。
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