筋肉。
そのキーワードは、肉体、汗、物量、限界への挑戦、頭脳、非物語、そして、無限。
TBSのアクトシアターで行われているミュージカル『マッスル・ミュージカル』を見ながら様々なことが思い浮かびました。しかし、こんなミュージカル見たことありません。音楽に合わせて、人間の体の可能な限りの限界に挑戦しています。そして、次々と考えも及ばないようなアイデアが飛び出します。
一番感心したのは、圧倒的な物量作戦ということ。50名以上のダンサーたちが一挙に同時に踊ったり、体を動かしたりすれば、それだけで美しい。2人より5人、5人より15人、15人より30人・・・。多ければ多いほど、あらゆる点で迫力があってすばらしい。
そして、人間の体の無限の可能性を感じます。体はなんでもできる、どうにでも動けるんだな、と思わされます。さらに、さまざまなアイデアを生み出す頭脳も無限の可能性があります。総じて、この「マッスル・ミュージカル」は人間の無限の可能性を見せ付けます。
透明人間にたたかれるようなパフォーマンス、かなりの笑いを取る人間ピアノ、迫力一杯の空中ダンス、床と天井とで繰り広げられるトランポリン、柔道着で踊るタンゴ、壁を昇る側転・・・。斬新なパフォーマンスが次々と登場して、見るものを飽きさせません。
このミュージカルの最大の美しさは、人間の肉体であると同時に、まったくストーリーというものがないにもかかわらず、観客をくぎ付けにできるパフォーマンスそのものです。ストーリーがないだけに、そこで行われるパフォーマンスに意味を見出す必要がない。まったく無意味なことを、ここまで徹底してやりとげるというところが、美しく、すばらしい。限りなく究極に無意味なものに対して、没頭する。それがすごい。
ストーリーがあれば、それゆえ、パフォーマンスにストーリーの意味を持たせることになるが、この「マッスル・ミュージカル」には、ストーリーがないから、パフォーマンス自体に意味がない。だからパフォーマンスそのものが観客にストレートに訴えるのです。「こんなことやって、何になるの」というようなことを、思いきり、練習して、技術を高め、高度なレベルでやって見せるわけです。
エンタテインメントなんて、衣食住と違ってもともとなくても生活には困らないもの。そして、この「マッスル・ミュージカル」は、それが徹底しているところがすごい。各シーンは、それぞれが独立しているから、それぞれの出し物の順番を変えても関係ない。言ってみれば肉体的パフォーマンスのオムニバスがこのミュージカルということになるのでしょう。しいて言えば、こういう動きをしたら、見る人が面白いのではないか。そんな動きを徹底して集めたわけです。
ぜひ、これをニューヨークのブロードウェイあたりでかけてもらいたい。言葉が必要ないのだから、アメリカ人がどのように受け止めるか、ものすごく興味がある。思わぬ超ロングヒット・ミュージカルになるかもしれません。
ひとつだけ注文があるとすればこうです。現在は途中15分の休憩をいれて、トータル2時間10分くらいだったが、休憩をなくして1時間45分くらいにまとめたら、もっと密度が濃くなるのではないでしょうか。第二部の方が第一部に比べて、若干物足りなく感じました。
(4月26日から5月11日まで、赤坂ACTシアター)