性。
こんな日記でも読まれている方が何人かいらっしゃいます。そうした方の日記を僕も読ませていただきますが、その中のひとりの方が先日バーバラ・メイソンの「ミー&ミスター・ジョーンズ」のことに触れられ、それで正しいの、と書かれていました。インターFM『バーバーショップ』(最終回)でケイ・グラントさん(鈴木雅之のダニー・レイ!)のリクエストで放送された曲です。普通は「ミー&ミセス・ジョーンズ」ですよね。
結論から言えば、正しいです。同じような疑問を持たれる方もいらっしゃると思うので、なぜ「ミー&ミセス・ジョーンズ」が「ミー&ミスター・ジョーンズ」になるかを簡単に説明しましょう。
ビリー・ポールの元歌「ミー&ミセス・ジョーンズ」は、不倫の歌なんです。歌っているのが男性シンガーなので、「私とジョーンズ夫人」の間の関係を歌うわけです。「私とジョーンズ夫人は、毎日6時半にいつものカフェで落ち合う。手を握り締め、さまざまな計画を練る。誰も、私たちがそこで逢っている事を知らない。僕たちは二人ともそれが悪いことだとはわかっているけれど、止められない。私とジョーンズ夫人」 一人の男(ミー=私)と、別の男(ジョーンズ氏)と結婚しているジョーンズ夫人の不倫です。
そして、女性シンガー、バーバラ・メイソンが歌うときには、今度は不倫の相手は男になるので、「私と(男の)ジョーンズ氏」となるわけです。
アメリカの歌の世界では、男性歌手と女性歌手の歌の立場がはっきりしています。男の歌手が女の歌、女の気持ち、女の目線での歌は決して歌いません。その逆もです。だから、その曲が「曲の性」を持っている場合、必ず「歌手の性」と一致させます。というわけで、冒頭の「性」という単語、ジェンダーの性です。セックスの性ではありません。
このほかの例ですと、キャロル・キング作、アレサ・フランクリンなどの歌で有名な「ユー・メイク・ミー・フィール・ライク・ア・ナチュラル・ウーマン」(あなたは私をナチュラルな女に感じさせてくれる=あなたといると、自然な女になれるわ)があります。これを男性シンガー、ジェームス・イングラムが歌うとどうなるか。「ユー・メイク・ミー・フィール・ライク・ア・ナチュラル・マン」になるわけです。「ウーマン」が「マン」に変化するわけです。
もう一例。ボズ・スキャッグスが歌う「ホワット・ドゥ・ユー・ウォント・ザ・ガール・トゥ・ドゥ」(君はガールに何をして欲しいんだい?)を女性のボニー・レイットが歌うとどうなるでしょう。「ホワット・ドゥ・ユー・ウォント・ザ・ボーイ・トゥ・ドゥ」(あなたはボーイに何をして欲しいの?)となるわけです。「ガール」が「ボーイ」に変化です。
日本の演歌は、そのアメリカ的スタンダード(基準)からすると、とても異様です。なぜなら、男の歌手が女の気持ちを歌った作品を歌うことが多いからです。男が男の歌を歌い、女が女の歌を歌うというのが、確かにあるべき姿なのですが。ただし、男が女の気持ちを歌うというものが、日本独自の文化のひとつと考えればそれもよしということになりますが。歌舞伎や宝塚も、男性が女性役をやったり、女性が男性役をやったりするわけですからね。
というわけで、「ミスター」と「ミセス」の変化についてのお話でした。