想像力。
たとえば、僕たちは「夜空にはふたりのためにリボンがかかっている」(「リボン・イン・ザ・スカイ」=82年)という表現を聞いたとき、なんと素敵なイメージだろう、と考えます。夜空に瞬く星がリボンの形を作っていることを想像できます。
「君は輝くレディー。君のひとみを見つめる。天国のようなひとみ」(「ゴールデン・レディー」=73年)と彼が歌うとき、僕たちは、ゴールデン・レディーが、きっとすばらしく輝いている、あるいはずば抜けて美しい人であろうということを想像します。
しかし、立ち止まって考えてみてください。それを書いた詩人は、夜空を見たこともなければ、夜空を彩る星も、リボンも見たことがないのです。ましてや、空にリボンがかけられている様なんか、絶対に見たことなどありえないのです。
そして、君のひとみを見たこともなければ、輝いている黄金の女性を見たこともないのです。いったい、見たこともないものを、どうしてあたかも見たかのように表現できるのでしょうか。
そうです、その詩人とは、スティーヴィー・ワンダーのことです。当たり前に聞いている曲、その表現を改めて、盲目の人が書いていることを認識して聞いてみると、その表現力に驚嘆させられます。
その表現力は、すべて想像なのです。想像がすべてを生み出す源泉なのです。よく言われる言葉に「Use your imagination」(想像力を使えよ)というものがあります。いろいろなときに使える僕も好きな言葉ですが、スティーヴィーの作品を聞くたびに、この言葉を思い出します。
「ウーマン・イン・レッド」(赤の女、赤のドレスに身を包んだ女=84年)というときに、僕たちは、赤のドレスを着た女性を思い浮かべられます。しかし、彼には赤という色さえわからないのです。
どうして、夜空にリボンをかける、なんて表現を思いつくのでしょうか。彼の10分の1でも、想像力を使ってみたいと思います。
そうそう、「だからさ、スティーヴィーは、目が見えてるんだよ」という声がどこからともなく、聞こえてきそうです。