趣向錯誤。
「ヴァルナーヴル」とは、傷つきやすいという意味です。そして、これは97年に発売
されたマーヴィン・ゲイの未発表作品のアルバム・タイトルです。マーヴィン・ゲイ
が67年に録音するも、レコード会社(モータウン)がずっと発売せずに、お蔵入りし
ていたものでした。
これは、マーヴィンがずっとあこがれていたクルーナー(バラードを歌うシンガーの
こと)としての側面を見せた珍しいアルバムでもあります。当時、マーヴィンはさま
ざまなビートのきいたアップテンポの作品でヒット曲を送り出し、スターになってい
たために、こうしたバラード系の作品は、モータウンからは歓迎されずに、ずっと日
の目をみずにいました。
7曲が録音され、マーヴィンはずっとこのテープを持っていましたが、彼の死後、97年
になって、やっと一般発売されたのです。このアルバムでは、7曲のほか、その7曲の
うちの3曲の別テークが収録され、一応10曲入りのアルバムになっています。
どれも、ストリングス、ビッグバンドをしたがえた歌を聴かせます。「いそしぎ(シ
ャドウ・オブ・ユア・スマイル)」、あるいは、「アイ・ウォント・クライ・エニモ
ア」などは、スタンダード・シンガーとしての魅力がたっぷりです。
僕も70年代だったら、マーヴィンのこのようなアルバムを聴いても、きっと、一度聴
いただけで、「ふんっ」などと言って、棚の奥にしまいこんでいたでしょう。でも、
それがこうして、いまどきになって聴くと、けっこう聴けてしまうんですねえ。しか
も、いい感じになって。休みの夜更けなんかに聴いたら、もうたまりませんねえ。
やっぱり、聴く音楽の趣味趣向って、年齢とともに、変化するんでしょうかねえ。趣
向も錯誤していく、ってことで。別に、どっちの趣味・趣向が間違ってるわけじゃな
いんですけど。