(3ヶ月ほど前に書きながら、日々の更新で未発表になっていた原稿です)
【ソウルを信じて~21世紀に生まれたソウル・アルバム】
ソウル。
ときどき、突然こんなアルバムが登場してくる。最初にこのCDをプレイヤーにかけ、1曲目が流れてきた時に、とにかく驚いた。「これが、2006年の新譜か?」と。まるで、そこから流れてくる音は、聴く者を70年代初期に連れて行ってくれるかのようだ。5人のアーティストのオムニバス・アルバム『アイ・ビリーヴ・トゥ・マイ・ソウル』である。その5人とは、ステイプル・シンガーズのリード・シンガー、メイヴィス・ステイプルス、ビリー・プレストン、ニューオーリーンズのアーマ・トーマス、アラン・トゥーサン、そして、メンフィスのアン・ピーブルスだ。
どういうラインアップなのだ。一体このアルバムは、なんだ。タイトルからして、「ソウルを信じて」という。こんなマニアックなアルバムを作った人物はジョー・ヘンリーというプロデューサー。僕はこのジョー・ヘンリーに強烈に興味を持った。いろいろ解説などを読んでみると、彼が2002年の超ヴェテランR&Bシンガー、ソロモン・バークのカンバックをてがけた人物だという。しかも、白人だ。何度か通して聴いているうちに、今年のベストアルバムは、これで決まりではないかと思うようになってしまった。メイシー・グレイがデビューしてきた時、そして、ジョス・ストーンが出てきた時と同様の衝撃だった。
ジョー・ヘンリーはリチャード・プライアーという黒人のコメディアンの自伝を書くために彼からいろいろ話を聞くうちに、70年代初期のソウル・ミュージックのことを知った。その中でも特にアン・ピーブルスに衝撃を受け、そうしたアーティストの作品を録音したいと考えるようになった。そのあたりの詳細は、彼自身が書いたライナーノーツに語られる。日本盤のほうがその訳がついているので日本盤がお勧めだ。
要は、アン・ピーブルスにぞっこんになった。そこで彼は、アンからいつの日にかプロデュースの依頼の電話がかかってくるのを待つか、あるいは、自分からアンに電話をするかの選択を迫られる。彼は結局、自ら受話器を取ってアンに電話をする。そこからこのプロジェクトは始まったという。
全13曲、声がかすれてだめになったのではないかと言われたメイヴィスの声の生き生きしていること。久しぶりに聞くアン・ピーブルスの新録。アーマ・トーマスが歌う「ラヴィン・アームス」。かつて、ドビー・グレイというシンガーが歌ってヒットさせた作品だ。アーマはもう1曲、ビル・ウィザースの作品「ザ・セイム・ラヴ」を歌う。
ジョー・ヘンリーは言う。「注目し、熟考し、考察しなければならない歴史がある。ソウル・ミュージックは、この国に生まれたいかなる音楽同様に重要なものだ」 また、こうも言う。「これは、クラシックなソウルの形式でレコーディングされた新しいものであり、クラシックなソウルを再現したものではない」 確かにそうかもしれない。しかし、ここには見事にソウル・ミュージックが持っていたあの「熱さ」「美しさ」「苦しみ」「悲しみ」「喜び」といったものが、クラシックなソウルとして再現されている。
一体このソウルの伝道師、ジョー・ヘンリーという男は何者なのだろうか。興味を持った僕はこのジョー・ヘンリーについて少し調べてみた。(つづく)
“I Believe To My Soul” by Various Artists (Warner)
ワーナーミュージック WPCR12249 - 2006年1月25日発売
1. You Must Have That True Religion – Mavis Staples
2. Both Ways – Billy Preston
3. Tonight I’ll Be Staying Here With You – Ann Peebles
4. The Same Love That Made Me Laugh – Irma Thomas
5. Mi Amour – Allen Toussaint
6. Keep On Pushing – Mavis Staples
7. As One – Billy Preston
8. Loving Arms – Irma Thomas
9. River Boat – Allen Toussaint
10. That’s Enough – Mavis Staples
11. Turvalon – Allen Toussaint
12. When The Candle Burns Low – Ann Peebles
13. We Are One – Allen Toussaint
ENT>MUSIC>ARTIST>Henry, Joe
ENT>MUSIC>ALBUM>I Believe To My Soul