Mark Murphy Live: The Urban Singer

【都会派マーク・マーフィー・ライヴ】

ビートニク。

「観客がスラギッシュ(sluggish=緩慢、反応がにぶい)時には、僕はより動いたり、(観客に)働きかけないといけないんだ」 マーク・マーフィーはショウを終え、チョコレート・アイスクリームを食べながらそう言った。伝説のジャズシンガー、マーク・マーフィーは1932年3月14日ニューヨーク州生まれの73歳。とても、そんな年には見えない。せいぜい50代か、くらいの印象だ。既存曲を独特の解釈で、まったく違ったヴァージョンにすることで類稀な才能をみせ、1950年代からニューヨーク・ジャズ界で知られるようになった。日本での知名度が低いゆえに若干観客が少なく、たまたまそれについての話題になった時に冒頭の言葉がでた。

初めてそのライヴを見たが、ニューヨークのヴィレッジあたりのコーヒーハウスでやっていそうなラウンジ・ジャズ、それにポエトリー・リーディングを挟み込んだようなステージだった。ひょっとしてジャズというより、フォークの弾き語りにジャズのエッセンスを加えた、ビートニク、ヒッピー世代のアーティストという感じがした。1曲トリオがインスト曲でラウンジ風にこなし、マークが赤ワインのグラスを片手にステージに上がった。ジャケットに赤いシャツ、そして白いネクタイというおしゃれないでたち。

今回のマーク・マーフィーのステージには若手グッドルッキン・トランペッター、ティル・ブレナーが客演。マークの芸風とティルのトランペットのコンビネーションがまったく異質だったので、興味を覚えた。どのような経緯でティルとは? 「数年前だったか、ティルがやったチェット・ベイカーの作品集『チャッティング・ウィズ・チェット』を聞いたんだ。それをとっても気に入ってね。ティルは昔の世代のものを、今の世代に持ち込んだ。で、ベルリンで会った。それで一緒にやることになったんだ」 

そして、マーフィーの最新作はそのティルがプロデュースしている。ティルのトランペットは、マイクも通しているが、ときどきマイクから離れると生でダイレクトに耳に入ってくる。小さなライヴハウスならではの感触だ。西のおしゃれなアーティストがマイケル・フランクスなら、東のちょっとソリッドな都会派がこのマークという感じだ。

マークは90年代になって、イギリスのDJジャイルス・ピーターソンに再評価のきっかけを与えられた。ピーターソンがマークの古いレコードに注目したためだ。その流れか日本のユニットUFOからも注目され、UFOとレコーディングし、そのときに来日もした。

マークのステージから、途中ポエトリー・リーディングを彷彿させるものがあったので、「ポエトリー・リーディングはやるんですか」と尋ねると、横に座っていたピアノのジョッシュア・ウォルシュが「彼が始めたんだよ」と口を挟んだ。「時々、やるよ。ジョシュアとはシアトルで会ったんだ。彼がシアトルのライヴハウスでやっている時にね」 「絶対音感はありますか?」 「ないよ、そんあもんあったら、気が狂うぞ(笑)」 

歌は決してうまいとはいえないが、味のある、すごくニューヨーク的なアーティストだ。「へたうま」っていうのかな。今はニューヨークから電車で2時間ほどのペンシルヴェニア州に住んでいるという。「あなたは、アメリカではたくさんライヴパフォーマンスはするんですか」と問うと、「いや、僕が住んでるところでは僕はあんまり人気がないんだ。僕は都会で受けるアーバン・アーティストらしい」 ジャズ、ポエトリー・リーディング、アーバン・・・。やはり、ビートニクだ。話をしているとちょっと耳が遠いので、質問なども大きい声で言い直さなければならなかった。

マークと話をしていると、なんとトクちゃんが登場。ずっとライヴを見ていたらしい。トクは、ティル・ブレナーとはすでに旧知の仲で、ティルのモーション・ブルーでのライヴに飛び入りしたりしたそうで、ティルといろいろ話をしていて、マークのところにもやってきた。そういえば、マークの「マイルストーン」をKミックス(静岡のFM局)で放送中のトクの番組『キー・オブ・ライフ』でもかけていた。

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独特の世界観を持ったマークのライヴから一夜明けて、土曜日は東京が一面雪景色になっていた。車を出すと、前日からマークのCD(『ワンス・トゥ・エヴリ・ハート』=最新作)が入っていてそのまま彼の歌が流れてきた。彼のけだるい歌声と時間が止まったようなテンポが雪景色に異様にフィットしていた。

(ライヴは、日曜22日までティル・ブレナーと、月曜23日と火曜24日はデュオ。場所はコットンクラブ)

■マーク・マーフィーウィズ・スペシャル・ゲスト・ティル・ブレナー

Mark Murphy (vo)/マーク・マーフィー (ヴォーカル)
Till Bronner (tp)/ティル・ブレナー (トランペット)
Joshua Wolff (p)/ジョシュア・ウォルフ (ピアノ)
Seward McCain (b)/スワード・マケイン (ベース)
David Rokeach (ds)/デヴィッド・ロキーチ (ドラムス)

Setlist (songwriter, year)

show started 21:31
01. I Hear A Rhapsody (George Frajos, Jack Baker, Dick Gasparre–1941)
02. Red Clay (Freddie Hubbard–1970)
03. It Never Entered My Mind (Rogers & Hart–1940)
04. All Blues (Miles Davis, Oscar Brown Jr.–1965)
05. (Medley) Skylark (Johnny Mercer, Hoagy Carmichael–1941)~
06. You Don’t Know What Love Is (Don Raye, Gene De Paul–1941)
07. Just In Time (Betty Comden, Adolph Green, Jule Styne–1956)
08. Our Game (Till Bronner’s original song)
09. Farmers Market (Art Farmer, Annie Ross–1960)
Enc. Parker’s Mood (Charlie Parker–1944?)
show ended 22:49

(2006年1月20日金曜・セカンド、コットンクラブ=マーク・マーフィー、ティル・ブレナー・ライヴ)

ENT>MUSIC>LIVE>Murphy, Mark with Till Bronner

2006-10

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