【リヴィング・ルームのパフォーマンス】
財宝。
ちょうど、ジョー・サンプルがピアノに向かって座ったその真後ろに陣取った。ジョーの揺れる背中、上下に動く両腕、左右に動く両方の手の指が見える。三分の一ほど蓋があいたグランドピアノから直接、音が耳に入ってくる。
ずっとその揺れる背中を見ていると、徐々にジョーに感情移入してしまい、なんとなく一緒にプレイしているような錯覚に陥った。映画を見ていて主人公に感情移入することはよくあるが、ミュージシャンのライヴではなかなかない。それはきっと、向こう側のピアノのジョージ・デュークとジョーのアイコンタクトがたっぷりあるからだろう。ジョージがこっちを見るので、別に彼は僕を見ているわけではないが、なんとなくジョージと何かをしているような錯覚をしたのだ。
ジョー・サンプルの曲解説は、まるで大学の黒人音楽史のクラスを聞いているかのようだ。1920年代に活躍したジェリー・ロール・モートンの「シュリヴポート・ストンプ」を演奏した後、マイクを持って彼は解説した。「みなさんは『ケーキ・ウォーク』を知ってるかな。奴隷時代に、奴隷たちのカップルがダンス・コンテストをやっていて、優勝するとケーキがもらえた。そんなダンスがケーキ・ウォークだ。(註、きっと、独特のダンスステップなのだろう) 僕の母親は、ケーキ・ウォークをしてたらしい。ジョージもやってたんだろう。(笑) (やってないよ、とジョージ) まあ、彼の血にはチェロキーの血が入ってるんだ。アメリカ人なんて、(あらゆる血が入り混じっているので)自分が(純粋に)何者かなんてわからないものだ」
もちろん、こうしたサンプル教授の講義も楽しみのひとつではある。彼の講義から知ったことも多い。(ニューオーリンズについて↓)
https://www.soulsearchin.com/entertainment/music/live/diary20040507.html
そして、それ以上に、例えばピアノを志している人、プロでもアマチュアでも、そうした人にとっては、ジョーとジョージのこの80分のパフォーマンスを間近に見るということは、何十時間のレッスン以上のものを得られるのではないだろうか。いいプレイヤー(音楽でも、スポーツでも)は、いいプレイヤーのパフォーマンスから盗むことがうまいものだ。ここには、そんな盗める素材が山のようにある。財宝ざくざくといったところだ。
僕も小学生の頃、ごたぶんに漏れずピアノを習わされた。バイエルを少しだけやった。だが、退屈で2年も続かず止めてしまった。もし、その頃、こんなジョーやジョージのライヴ・パフォーマンスを見たら、きっとものすごくピアノをやりたくなったかもしれない。もっとも小学生では、まだ無理かなあ。(笑) ピアノを嫌々習っている子供たちにこのような演奏を見せたらどうなるのだろうか。興味津々だ。
この日のハイライトは、ジョージ・デュークが初めてやったという「ソー・アイル・プリテンド・アゲイン」。ジョージの95年のアルバム『イリュージョン』収録の曲で、そこではダイアン・リーヴスが歌っていたもの。
彼らの演奏を間近で見ていると、誰かのリヴィング・ルームでピアニストがリサイタルを開いているかのようだ。ほんとにインティメイトな雰囲気で、しかし、ミュージシャンシップがほとばしり、緊張感とリラックスがほどよく混在し、なんともいえない空気感にあふれ、独特の時の流れがある。
アンコールとなった「ストリート・ライフ」では、ジョージがグラスを片手で持って、観客に向けて「カンパ~イ」とやったら、ジョーもそれを受けて、やはり右手でグラスを持ち、ジョージに向けて「カンパーイ」とやった。その間、二人とも演奏は左手だけになった。そして、ジョーの左手は、かなりファンキーなリズムパターンを演奏するにいたった。ジョーが言うところの「ファンキー・ストリート・ライフ」だ。たしかに今までの中で一番ファンキーな「ストリート・ライフ」になっていた。
Setlist Second Set (November 23, 2005)
(註、Joe&George はジョーとジョージのデュオ。それぞれのソロは、ひとりだけで演奏。曲目後は、オリジナル作曲者とその作品が登録された年号。ヒット曲の場合は、ヒットした年)
show started 21:02
=Joe & George=
01. It Don’t Mean A Thing If It Ain’t Got That Swing (Duke Ellington: 1932, From “Sophisticated Ladies”)
02. Some Day My Prince Will Come (Frank Churchill: 1937, From “Snow White & Seven Dewarfs” )
=George Solo=
03. I Loves You Porgy (George Gershwin: 1935, From “Porgy & Bess”)
04. So What (Miles Davis: 1961)
=Joe & George=
05. Blue Trane (John Coltrane: 1977)
06. Cherokee (Ray Noble: 1939)
=Joe Solo=
07. Soul Shadows (Crusaders: 1980)
08. Shreveport Stomp (Jerry Roll Morton: 1920s)
=Joe & George=
09. Whisper Not (Benny Golson: )
10. Bluesette (Toots Thielemans: 1964)
=George Solo=
11. So I’ll Pretend (From George Duke Album “Illusions”: 1995- on CD Dianne Reeves on vocal)
=Joe & George=
12. Love For Sale (Cole Porter: 1930)
Enc. Street Life (Crusaders: 1979)
show ended 22:23
(2005年11月23日水曜、東京ブルーノート=ジョー・サンプル、ジョージ・デューク・ピアノ・デュオ・ライヴ)
ENT>MUSIC>LIVE>Sample, Joe / Duke, George
ENT>MUSIC>ARTIST>Sample, Joe / Duke, George