【忘れえぬ夜】
ハート&ソウル。
「ソウル・ブレンズ」が終って、青山へ直行し、整理番号をもらい、開場を待った。番号は14番。なんという番号。これだったら、どこでも好きな所へ座れそうだ。意外に、満員にはなっていなかった。会場に入るとピアノが2台右と左に少し離れて置かれていた。お店の人に、ジョー・サンプルはどちらのピアノか尋ねると、左だという。そこで左の一番前に座ろうとしたら、「あ、すいません、ジョーは右側のピアノです」と言うので、あわてて、右の一番前の席を取った。あぶないあぶない。(笑) ちょうど、彼がピアノを弾くと背中が見えるところになる。
それにしても、ふたりのピアノ・デュオというのは、どんなになるんだろう。まったく想像がつかない。
暗転してふたりがそれぞれの持ち場につく。ジョーがすぐ横を通る時、僕に気がついてくれた。いきなり、ジョー・サンプルとジョージ・デュークの演奏が始まった。どうやら、ジョーがリードして、ジョージがそれをフォローする形のように見受けられる。ジョージはずっとジョーのことを見ている。ジョーのピアノは、僕たちの席からは間近なので、アンプを通さない直接の音が聴こえる。アップテンポの曲は、ジョーがけっこう声を出して歌っているのが聴こえる。
ふたりで演奏する曲は、楽譜を見ている。そのため、彼はめがねをかけていた。たしか、ソロの時は、楽譜を見ないので、めがねをかけていなかったと思う。最初、ジョーが演奏を始めて、まもなく、ジョージが演奏を始めたのだが、ジョーの動きと違う音がでていて、初めてジョージがかぶさっているのが、わかった。それにしても、一体どのように連係しているのだろうか。まったくわからない。すごいものだ。こんなことができるのか。溜息ものだ。同行オッシーも、「いやあ、すごいっですね」。「ほんとすごいねえ」
ふたりで2曲演奏して、ジョージ・デュークのソロへ。自分の大好きな曲だと言って「マイ・フーリッシュ・ハート」を演奏した。これを聴いて、ジョージもジョーに負けず劣らず、優しいタッチを聴かせるのだなあ、と感心した。確かにジョージのピアノは、CDなどで聴かれるが、やさしくメロディアスだ。ジョージのソロピアノというのは、バンド内で1-2曲演奏されるだけで、なかなかじっくり聴く機会はなかったが、とてもよかった。
再び、デュオ。ジョージがシュアなリズムをキープし、ジョーが物語を爪弾く。それにしても、このデュオはすごいなあ。ピアノのデュオってみんな、こんななのだろうか。ジョーもジョージも、それぞれの力を出し切っている。
今度はジョーのソロの番だ。ちょっとだけ何かを弾いたら、突然気が変わったのか、それをやめてマイクを握った。「ちょっとまってくれ。実はひとりの人物が、先日ある曲をやってくれないか、と言ってきたんだ。その彼は僕が泊まっているホテルにCDを置いていった。『スターダスト』を覚えてくれ、と。(笑) そこで、僕はCDを聴いた。昔やっていたが、『スターダスト』はもう30年以上、やっていない。僕は、ナット・キング・コールのヴァージョンがとても気に入っている。そこで、(CDに入っていた)彼の曲を聴いて、やってみることにした。では今夜、30年ぶりに『スターダスト』をやってみよう」
やった~~~! ジョーはピアノの上に置かれている何枚かの楽譜から「スターダスト」の楽譜らしきものを取り出して、譜面台に立てかけ、それに目をやり、演奏を始めた。「あれ、なんで楽譜があるの? なんで、楽譜が?」 一挙に疑問符が点灯した。まさか、CDから楽譜を聴き起こしたのだろうか? 明らかに、何か弾こうとした曲は、やめてこれに変えたということだ。楽譜に目をやりながら、ジョーは「『スターダスト』はものすごく音(音符)がたくさんあるんだよ」と微笑みながら不満げに言った。
あのやさしいタッチで曲が始まった。紛れもないジョー・サンプル、間違いなく「スターダスト」。とてもゆったりしたテンポだ。はっきり言って、もうとろけます。大好きなジョー・サンプル氏が大好きな「スターダスト」を演奏してくれるなんて。しかも、ソロで。夢のようだ。死んでもいい。(笑) 5分半くらいだったが、このジョー・サンプルの「スターダスト」は、決して忘れない。
もう1曲、ジョーがソロを弾き、ジョージとふたりで2曲。そのうちの1曲はトゥーツ・シールマンの「ブルーセット」だった。今度はジョージのソロの番になり、ジョーは舞台を降りた。すると、なんと彼は僕らのテーブルの横に並んで座って、ジョージのパフォーマンスを見たのだ。グラスを少し掲げ乾杯をして、テーブルにあったフライドポテトをつまんだ。つまり、僕たちは今度はジョー・サンプルと同席して、一緒にジョージのライヴを見て、杯をかわし、ディナーを共にしたことになる。(笑) わお!
ジョージのこのソロパートもやられた。なんとあのアップテンポの「シャイン・オン」をスローのアコースティック・ピアノ1本でやったのだ。最初僕はわからなかったが、オッシーがすぐにわかった。「シャイン・オン」のスロー・ヴァージョンは想定外だ。そして、それに続けて、「スイート・ベイビー」。ジョージがいきなり歌いだした。ここで歌が入るか! まいった。
そして、再びジョーがステージに上がり、「僕も1曲やろう」と言って、「スペルバウンド」を演奏した。ちょうど、その演奏中、オッシーが、僕のメモノートに「ブルームーン」「ラヴ・フォー・セール」「ストリート・ライフ」と書いた。何かと思ったら、ジョーの足元に置いてあるセットリストを見て、それを書いたのだ。僕なんてとても、その距離の字は読めないが、なんと言っても視力2.0のオッシーの眼力はすごい。ほ~~。読めちゃうか、あの字が。すると、順番は違ったが、この3曲が最後に演奏された! 最後の「ストリート・ライフ」は、かなりピアノ・デュオの斬新なアレンジになった。ジョージは、よくジョーの方を見ている。特に、曲の締めのところなど、お互い目で合図しながら、うまく終わりを合わせる。
夢のような90分。ありがとう、ジョージ&ジョー。きっと、ジョージとジョーにとって、同じ夜はないに違いない。毎夜、たとえ同じ曲でもまったく違ったアレンジで、別の展開で披露していることだろう。マネジャーのポールがふと漏らした言葉がいまだに心に残っている。「(ジョーが)演奏する曲は同じでも、演奏自体は、毎回違うんだよ。彼のハート&ソウル(心と魂)以外はね」 毎回違うパフォーマンスを見せるが、曲の奥底にはいつもジョーのハート&ソウルが漂っている。
(ジョー・サンプル、ジョージ・デューク・ピアノデュオ・ライヴは、今週土曜日26日まで、東京ブルーノートで行っています)
Setlist Second Set (November 20, 2005)
(註、Joe&George はジョーとジョージのデュオ。それぞれのソロは、ひとりだけで演奏。曲目後は、オリジナル作曲者とその作品が登録された年号。ヒット曲の場合は、ヒットした年)
show started 21:04
=Joe & George=
01. It Don’t Mean A Thing If It Ain’t Got That Swing (Duke Ellington: 1932, From “Sophisticated Ladies”)
02. Honeysuckle Rose (Thomas Fats Waller: 1929)
=George Solo=
03. My Foolish Heart (Victor Young: 1949)
04. Geneva (From George Duke’s album “Snapshot”: 1992)
=Joe & George=
05. Blue Trane (John Coltrane: 1977)
=Joe Solo=
06. Stardust (Hoagy Carmichael: 1929)
07. Carolina Shout (James P. Johnson: 1922)
=Joe & George=
08. Cherokee (Ray Noble: 1939)
09. Bluesette (Toots Thielemans: 1964)
=George Solo=
10. So What (Miles Davis: 1961)
11. Shine On (George Duke: 1982)
12. Sweet Baby (George Duke: 1981)
=Joe Solo=
13. Spellbound (Joe Sample: 1989)
=Joe & George=
14. Love For Sale (Cole Porter: 1930)
Enc. Blue Moon (Richard Rodgers: 1934)
Enc. Street Life (Crusaders: 1979)
show ended 22:31
(2005年11月20日日曜、東京ブルーノート=ジョー・サンプル、ジョージ・デューク・ピアノ・デュオ・ライヴ)
ENT>MUSIC>LIVE>Sample, Joe
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