Could You Do Me A Favor? Will You Play "Stardust" For Me? : Joe Sample (Part 3)

【30年は演奏していない「スターダスト」】

リクエスト。

饒舌になってきたジョーはいろいろな話を始めた。本当にテープレコーダーで録音したかったほどだ。記憶にまかせてジョーの言葉に聞き耳を立ててみよう。

「最近、僕はひとりでの演奏がけっこう気に入っている。バンドとかではなくね。なぜなら、ひとりでやるほうが、圧倒的に自由度が高いからね。バンドと一緒にやっていると、ある程度方向性が制限される。だが、ひとりでやっている限り、ある瞬間は、こっち、次の瞬間になにか思いついたらそっちと、どこにでも自由自在に移動できる。そういうところが好きなんだな。ポップ・ミュージックは、同じことを繰り返すので、苦手だよ」

「ジョージ・デュークとのデュエットは、8月だったかに、ハリウッドボールでやる機会があった。リハーサルかい? ジョージと5分くらいやったよ。(笑) ショウの構成は、ふたりで2曲やって、ジョージのソロ2曲、またふたりで2曲やって、僕のソロ2曲、といった感じで進めていく」

最近、聴いたアニタ・ベイカーのクリスマス・アルバム『クリスマス・ファンタジー』でのジョー・サンプルのパフォーマンスが大のお気に入りだったので、そのことを伝えた。「ああ、あのレコーディング・セッションはとてもいい経験になった。とても楽しかったよ。2日間だったかな。どれも、みんなワンテイクかツーテイクだよ」

「こんなことがあった。彼ら(プロデューサー、ソングライター、アニタたち)はその場で、曲を作るんだ。アレンジャーのバリー・イーストモンドが、彼もピアノを弾くんだが、こういう風にやってくれ、と僕に指示した。ところが、その指示通りにやると、そうじゃない、こうやってくれ、という。ところが、その指示が最初と次のでまったく違うんだな。(笑) 僕も言われたとおりにはできなくて、勝手にやってしまったりするんだけどね。まあ、何をどうするかが決まってないときには、よくあることなんだが。そのうちにドラマーのリッキー(・ロウソン)が、ドラムセットを引っくり返さんばかりに切れてね。(笑) いいかげんにしてくれ、みたいな雰囲気になったんだ。そうしたら、その瞬間から、すべての流れが変わった。そして、すごくセッションがうまく行き、とてもいい曲ができたんだよ。(註、『ファミリー・オブ・マン』か、『ムーンライト・スレイライド』のどちらかと思われる)」

「アニタはね、自分が周りの連中からクレイジーだと思われているということを知ってるんだ。彼女も自分はこういうシンガーだという枠を無意識のうちに決めていたりするんだね。そのために、ミュージシャンたちに対して厳しいことを言ったりしたりするのかもしれない。彼女自身が考える喉の限界とか、(歌える)音域の限界とかね。ところが、いいミュージシャンとコラボレートすると、そういう一流のシンガーでも、さらに一歩壁を越えて向こう側に行けるんだよ。きっと、アニタは、このセッションでそういうことができたと思う。その点でも、このレコーディングはとてもいい経験になった」

「東京から帰ったらニューヨークに行って、グラディス・ナイトのレコーディングに参加する。その後は、LAに戻って、ランディー・クロフォードとアルバムを作るんだ。そのために曲を書いて、アレンジしないといけない。今、(ホテルの)部屋でやってるよ。ランディーには、ニーナ・シモンや、ナンシー・ウィルソン、エラ・フィッツジェラルドなんかの曲を歌ってもらおうとおもっている」

そんな古い曲の話をしているうちに、セカンド・セットのオープニングでスタンダードの「ペーパームーン」をやった話題になった。「なんでまた『ペーパームーン』を?」 「いや、昔からなじみのある曲だから。昔の作品には、メロディーがあるだろう。僕はメロディーがある作品が好きなんだ」 そこで、僕の脳裏にひとつのアイデアが浮かんだ。

「1曲、演奏していただきたい曲が思い浮かびました。リクエストです。『スターダスト』は、演奏されますか?」 「おー、『スターダスト』・・・。昔、随分やったよ。でも、30年はプレイしてないな。(笑) 曲を正確には覚えてないよ。(といって、冒頭のメロディーをハミングする) ここは、メロディーだな、ヴァース(サビの部分)はどうだったっけ。(いろいろメロディーを試すが、なかなかサビ部分がでてこない) お~い、ポール(マネージャー)!」 「イエス・サー」 「スターダストのサビの部分はどうだった?」 「(ちょっと試すが、やはりイントロのメロディーのところ)」 「そこは、メロディーだ」 

「なるほど、じゃあ、歌詞カードがあれば、いいですか」 「いや、歌詞カードじゃなくて、レコードがないとだめだ。あるいは、楽譜」 「わかりました、では、スターダストのCDをお渡しします。明日、ホテルに持っていきますよ。フロントに預けておきましょう」 「わかった。じゃあ、もし準備する時間があったら、考えてみるよ。日曜日に来るんだね」 「はい、日曜のセカンドに」

こうして僕はうちに帰るなり、家中の「スターダスト」をひっぱりだして、一枚のCDに焼いた。こんなのは朝飯前だ。なんてったって、昨年、オッシーとともに横浜のバー、スターダストの特集番組を作るために、「スターダスト」を集めたことがあったからだ。結局、8つのヴァージョンをいれた「スターダスト」CDを作った。8つのヴァージョンは、ロッド・スチュワート、ナット・キング・コール、エロール・ガーナー、ウィリー・ネルソン、ウイントン・マルサリス、トク、ファッツ・ウォーラー、スティーヴ・タイレルだ。しっかり、トクのヴァージョンもいれてみた。エロールとファッツは、ジョーより先輩のピアニストだ。CD作るのは朝飯前だが、「スターダスト」8ヴァージョンを作るとほとんど夜は明け、朝飯時になっていた。そして、明けて土曜の午後、そのCDをホテルにおきにいった。

果たして、日曜日、ミスター・サンプルは「スターダスト」をプレイしてくれるのだろうか。もし、ソロで弾くとなると、どんなになるのか? スローなのか、ミディアム調なのか。まったく想像がつかない。期待に胸を弾ませて、ブルーノートに向かった。

(ジョーの話、続きます)

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