(昨日からのつづき)
【スティーヴ・タイレル語る】
歌好き。
それにしても、一曲が短い。だいたい3ー4分前後。これは気持ちいい。次から次へとほとんどMCもなく、曲が歌われる。それも、ほとんどなじみのスタンダードばかり。アメリカのクラブではバカ受けするだろう。
ドラムス、ギター、ベース、ピアノ、キーボード、そして、サックスという6人編成にスティーヴ本人。彼は実にエンタテイナーぶりを発揮する。それほど客数も多くないが、笑顔をふりまき、観客を指差し、コンタクトを欠かさない。
こういう言い方は若干失礼になるが、ロッドの『ザ・グレイト・アメリカン・ソングブック』をライヴで聞いているかのようだ。
16曲目の「イット・ハド・トゥ・ビー・ユー」が終わって一度舞台を降りたが、観客の拍手に迎えられてステージに戻ってきて彼はマイクを握った。「よく聞かれるんです。あなたがもっとも影響を受けたシンガーは誰ですか、と。その答えは簡単です。彼の音楽は、僕が初めて聴いた日からずっと僕のソウルに触れてきました。一言で、彼の声にやられました。幸運なことに、僕は彼と一緒に仕事をし、プロデュースする機会がありました。では、僕のフェヴァリット・アーティストの曲を歌いましょう」
一瞬、レイ・チャールズのことかと思ったが、彼がレイをプロデュースしたとはきいていなかったので、誰だろうと思ったら、流れてきた曲は「ジョージア・オン・マイ・マインド」だった。「おお、やっぱり!」 スティーヴの歌声の節々にやはり、レイの面影はあるのだ。なんといっても、CDでこれを聞いたときには、ほんとは黒人じゃないか、と思ったほどだったから。
それまでのスタンダードを歌うスティーヴとは明らかに違っていた。彼がレイをプロデュースした作品は、今月新譜として出るレイのデュエットアルバムの第二弾に収録されている。
ライヴが終わって、彼が客席にでてきたので、少し立話をした。50歳からのデビューということがあったので、「いつ頃から歌いはじめたのですか」と尋ねた。「ずっと、生涯歌ってるよ。たまたま、映画のオーディションのときに、僕のテープがよかったらしくて、実際に歌ってみればと言われて、歌ったら評判がよくなってね。それで、レコードデビューして、あとはご存知の通り」
「レパートリーは、そうだな、100曲、いやもっとあるなあ。自分がレコーディングした曲は全部歌えるし、たとえば、自分がプロデュースしたロッドのものなんかも、アレンジは僕がしてるので、使えるし、歌えるよ。セットリストも、よく変えてる。アメリカでは、ファーストセットにきた客がそのままセカンドにも残ってることが多いんだ。だから、そういうときは、全部曲を変えるよ」
「『スターダスト』は今日はファーストで歌いましたか? あなたのヴァージョンが大好きなんですよ」「あれには、トゥーツ(・シールマン)がはいってる! いや、あれはしばらく歌ってないな。歌ってほしければ歌えるよ」と言って、「and now the purple dusk of twilight time~」とさわりをその場で歌ってくれた。おおおっ。気さくでフレンドリーです。
「ロッドが第4集を作ったと聞いてるんですが」 「ああ、もうすぐ出る、あと2週間くらいでリリースされるんじゃないかな。3作目も今度のも僕がプロデュースしている。ロッドは、僕の1枚目を聞いて僕のファンになったんだ。それで、同じようなアルバムを作りたいと思って連絡してきた。だから、彼が僕のスタジオにやってきて、僕のミュージシャンたちを使わせてあげた。1作目はまあまあだと思うけど、3作目はとてもいいできだと思う。二人(ロッドとスティーヴ)にとって初のグラミーになったからね。自分の新作は、『シングス・フランク・シナトラ』だ。これは自分のアルバムの中でベストだよ。今年の初め、ハリウッドボウルで、クインシーの指揮でシナトラの曲を歌う機会があって、それが大評判だった。そうしたら、レコード会社がシナトラの曲ばかりのアルバムを作ってくれ、といってきた。それで録音したんだ。シナトラ・ファミリーの最大限のバックアップをもらえてね。ジュニアも奥さんもみんな知ってるんだ。フランク・シナトラ・ジュニアは、一曲僕と一緒に歌ってるんだよ。彼はうまいシンガーだよ。もうすぐアメリカででる」
「あなたの声は、ルー・ロウルズに似てると思うのですが」 「ああ、ルーもいい友達だ」と言って、ルーのヒット曲 You’ll never find another love like mine~とちょっと歌う。いやいやほんとに歌がお好きな人なんですね。ただしルーのヒットは、正式なレパートリーには入ってないそうだ。
■日曜日の「ソウル・サーチン」でスティーヴ・タイレルをご紹介します
■スティーヴのライヴは、10月9日=日=、10日=月・祝日=、11日=火=と3日間ブルーノートであります。古き良きヴォーカルをお求めのかたは、ぜひ。
■ブルーノートウェッブ
http://www.bluenote.co.jp/art/20051009.html
(2005年10月4日火曜、横浜モーションブルー=スティーヴ・タイレル・ライヴ)
ENT>MUSIC>LIVE>Tyrell, Steve