【「何と書いたら」その4】
創造。
航志くんには、まずかつてライヴで聴いていた「ジョージア・オン・マイ・マインド」を歌ってもらいたかった。そして、もう1曲くらいレイの歌を歌ってもらえればなあ、と相談するが、時間的にまったくゼロから新曲を練習する時間はないという。そこで浮上したのが、レイも歌っているカヴァー曲からビートルズの「イエスタデイ」という曲。すぐにレイのCDを送って聴いてもらうが、航志くんはこの曲をすでに、ダニー・ハザウェイ・ヴァージョンで覚えていた。
そして、彼側からオリジナルを1曲披露したいということで、オリジナルが歌われることになった。こうして、「ジョージア」~「オリジナル」~「イエスタデイ」という3曲が決まった。
一方、黒沢さんは、のりのいい「アンチェイン・マイ・ハート」を希望。その中で、黒沢さんと航志くんのデュエットというのはあり得るのかというアイデアが浮上してきた。一期一会、どうなるか。まず航志くんが「喜んで」ということに。黒沢さんも、スケジュール的に自分もすでに歌える曲でデュエット曲がいいと快諾。そこで黒沢さんに選ばれた曲がスティーヴィーの「ユー・アー・ザ・サンシャイン・オブ・マイ・ライフ」だった。
ところが、その後黒沢さんが航志くんのビデオを見たところ、そこで彼が歌っていた「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」がいいのでは、と提案され再度航志くんに尋ねると、まったく問題なしとの答えで、二人曲が「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」になった。
曲順、出番などを決め、第一部で航志くんが3曲。黒沢さんは、第二部で1曲歌い、その後航志くんを呼び込み二人で1曲(デュエット)ということになった。
そして、「アンチェイン・マイ・ハート」(黒沢さん)、「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」(デュエット)が終った後、航志くんがいきなり、「ここで、ジョイントを・・・」と言って、「誓い」が突然歌われたのだ。航志くんは地元の鹿児島でゴスペラーズのライヴに行っていて、CDもよく聴いていた。
しかし、航志くんは「誓い」も「永遠に」も、人前でやったことはなかった。ぶっつけ本番だ。当日夕方、全員が会って軽く流れの打ち合わせをしている時に、航志くんに「ゴスの曲なにか、歌えるの?」と尋ねるとその2曲は歌えると言っていた。だがその場では「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」を歌った後、最後の曲「アイル・ビー・グッド・トゥ・ユー」になる予定だった。
それにしても突然で僕も驚いたし、誰よりも黒沢さんが驚いた。ベースの名村さんもあっけにとられている。完璧に航志くんがステージを支配した。こういうのを「ショウを盗む(steal the show)」というのだろう。そして、ローズの音の響きに彼が歌い始めると、まもなく黒沢さんが歌い始める。もちろん、リハなどなし。どっちがどこを歌うなどということも決めていない。しかし、見事なデュエットになっていく。こういう即興性が、ライヴの醍醐味だ。黒沢さんが一体どういう風に終えるのだろうかと何度も航志くんのほうを見るが、もちろん、航志くんは気がつかない。最後は航志くんが歌詞を引き取って無事終えた。しかし、よくこんなにうまくできちゃうものだ。この二人のデュエットを聴いていて胸が一杯になった。
よくミュージシャンたちは、何百回の練習よりも、1回の本番のほうが力がつく、という。航志くんの音に対する感性はずばぬけている。家で何度か歌っていたかもしれない「誓い」も、この日たった1回大勢の人前でやったことによって、彼はきっとこの曲を自分のものにしたはずだ。ひょっとしたらもっと練習して彼自身のライヴで歌うかもしれない。
そして、アンコールで全員で歌った「ホワッド・アイ・セイ」も、彼はこの日初めて人前でやったのだ。一週間ほどまえに、「アイル・ビー・グッド・トゥ・ユー」と「ホワッド・アイ・セイ」を全員で歌うことにしたので、コーラスかサビのところだけ覚えておいてもらえればいいですよ、基本的には全部ケイリブが歌うから、と伝えておいた。サビのところだけなら、練習する必要もないので、忙しい彼に負担にならないだろうと考えたのだ。
だが、彼はこの2曲のCDを何度か聴いていて、すぐに覚えた。しかも、「ホワッド・アイ・セイ」に至っては、彼のローズの音から始まることになったのだ。これには僕もたまげた。しかも、途中でケイリブが「航志くん、プレイ・サム」と言われて、キーボードのソロまで披露したではないか。一体どうなってるんだ?
僕はプロデューサーの永島さんに尋ねた。「これ、(彼は)いつ練習したの?」 「ここに来る車でずっと聴いてたよ」 「えええっ、天才じゃないの」 「天才だ・・・」
僕はずっとステージの上で彼がローズを弾きながら歌うのを見ていた。ケイリブが歌う「ホワッド・アイ・セイ」は、過去3回の「ソウル・サーチン・トーキング」の彼の歌う作品の中で、一番熱かったのではないか。それは、航志くんの熱も、あるいは、黒沢さんの熱もケイリブに乗り移ったからだろう。これをミュージシャンシップという。
舞台でキーボードを弾きながら歌っている航志くんは、16歳。それを情報として知って、彼の姿を見ていると、16歳なのかと思うが、目をつぶって音だけを聴いていると、とても16歳には思えない。年齢というものがただの数字だということを感じる。一体これから、何が起こるのだろう。彼は絶対に僕らの想像以上のものを創造するに違いない。
(2005年6月26日日曜、ソウル・サーチン・トーキングVol.4~レイ・チャールズ=目黒ブルースアレー)
ENT>MUSIC>EVENT>Soul Searchin’ Talking Vol.4