【「何と書いたら」その2】
(その1からの続き)
スパーク。
第二部は、ケイリブのソロから始まりました。ケイリブが選んだ曲が、前にも書いた「ベイビー・グランド」。ビリー・ジョエルの曲で、ビリーがレイとデュエットしたものです。ケイリブのピアノの弾き語りにぴったりの作品。この曲、次の「ユー・ドント・ノウ・ミー」もしっとりした曲で、彼がこういうのをやると、ほんとうにうまい。当日は、「白眉ですね」とコメントしてしまった。まさに、ケイリブ、憧れのピアノマンですね。「ベイビー・グランド」は、「ユー・ドント・ノウ・ミー」を元に作ったのではないかと思われるほど曲調が似ています。
「ユー・ドント・ノウ・ミー」は、元々カントリーのシンガー、エディー・アーノルドの1956年のヒットです。レイ自身のものは、62年にヒットし、2004年の遺作『ジニアス・ラヴズ・カンパニー』では、ダイアナ・クラールとデュエットで再録音しています。また、映画『レイ』の没シーンで、白人の兵隊とレイが一緒に歌い意気投合する「エニータイム」という曲もエディー・アーノルドの持ち歌。
そして、映像で、クリント・イーストウッド監督の『ピアノ・ブルース』の冒頭、映画『ブルース・ブラザース』から「シェイク・ユア・テイル・フェザー」。イーストウッドとレイ・チャールズは同じ年。大のジャズ好き、音楽好きのイーストウッドが自分のあこがれのレイ・チャールズにインタヴューする様子はとてもいい感じ。「シェイク・・・」では、たくさんのダンサーが通りで踊りますが、これを監督したジョン・ランディスはこうした派手なダンスシーンを後にマイケル・ジャクソンの「スリラー」などで再現します。もちろん、もとをたどれば、『ウェストサイド・ストーリー』までさかのぼれますが。
「シェイク・・・」の中では、レイがキーボードの前で弾きながら歌いますが、アップになった時、彼のダークなサングラスに目の前の鍵盤が映りこむシーンが3箇所ほどある。まさに、このシーンこそ、映画『レイ』の冒頭のシーンのヒントとなったところです。(この話はするのを忘れた)
そして、スペシャル・ゲスト第2弾。レイ・チャールズは、ゴスペルとブルース、カントリー、ジャズなどあらゆる音楽をミックスして、独自のソウル・ミュージックというものを作り上げました。日本でゴスペルといえば、その名前をグループ名につけた5人組がいます。(ここで拍手) 昨年10周年をむかえ、もはや円熟味を増してきたゴスペラーズから黒沢薫さん!
これは、僕にとってもかなりサプライズでした。超売れっ子の黒沢さんが実際に来てくれるなんて夢のようです。黒沢さんは、レイ・チャールズの作品から「アンチェイン・マイ・ハート」を選びました。アップテンポで、雰囲気あってます。リハの時からいつになく黒っぽさがでてました。ケイリブのピアノ、サックスの太田剣さんのバックにあわせてファンキーに「アンチェイン・マイ・ハート」。黒沢さんのソウル・カヴァーは『フィール・ン・ソウル』時代でもすっかりおなじみでしたが、レイの曲はそういえば、レパートリーにはなかったように記憶しています。新鮮でした。
黒沢さんが学生時代アルバイトをしていた喫茶店で、ずっとレイ・チャールズがかかっていたという思い出話を披露し、その頃、聴いた1曲ということで、「アンチェイン・マイ・ハート」が選ばれました。
そして、歌い終わったところで黒沢さんが、一部の木下航志くんのことを「すごいねえ」と話し始めました。「じゃあ、二人で何か1曲、やっていただきましょうか」ということで、木下くん再登場。当初、黒沢+木下・デュエット構想は、「ユー・アー・ザ・サンシャイン・オブ・マイ・ライフ」で行こうかということだったのですが、黒沢さんが、木下くんのNHKの番組(『響けぼくの歌 ~木下航志 14歳の旅立ち~』)を見て、「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」をやりたいと思い、急遽前日に変更になりました。
『響けぼくの歌 ~木下航志 14歳の旅立ち~』について
https://www.soulsearchin.com/soul-diary/archive/200404/diary20040430.html
木下くんがローズのところに座り、黒沢さんが横に立ち、「僕が女役になってもいいんですが・・・(笑) さきほどの『イエスタデイ』が、航志くんにダニーが降りてきていたので、元々はキャロル・キングが書いた曲を一緒にやろうかと。『ユーヴ・ガット・ア・フレンド』です」(歓声)と説明。
ローズでやる木下くんの、時々でてくる「あ~~」とか「う~」という歌声が、すごい。ソウルの片鱗がある。深みのある声だからかなあ。
「ユーヴ・ガット・・・」を終えて、しばし話していると、木下くんが突然「では~」と言って割り込んできた。「何、航志くん?」 「せっかくですから、ここでジョイントでも」と言って、彼が「誓い」を歌うと言い出したのです。僕も、黒沢さんも、周囲もびっくり。結局やることになり、木下くんのローズ(エレキ・ピアノ)のシンプルなバックで彼が歌い始め、それに黒沢さんが重なって歌い始めました。ローズのシンプルな響きに、二人の歌声が会場を包み込む。途中、2パートのハーモニーみたいになった。これなど、リハなし。航志くんもこの曲を人前で歌うのは初めてだという。プロデューサーの永島氏も、「たぶん、うちで好きで歌っていたんじゃないか」と推測した。会場の中で、ちょっと泣いている人もいたように見受けられた。マジックだ。
そして、最後の曲「アイル・ビー・グッド・トゥ・ユー」を全員で。僕はコメントで「レイ・チャールズの89年のアルバム、Qズ・ジュークジョイント」って言ってしまったのですが、正しくはクインシー・ジョーンズの『Qズ・ジュークジョイント』です。頭の中ではクインシーと言ってるのに、口からはレイ・チャールズって言ってるんですね。困ったもんだ。
挨拶をして、アンコール。これは全員で「ホワッド・アイ・セイ」。ケイリブが歌詞を歌い、コーラス、アドリブをそれぞれがやる。曲の始まりは、航志くんのローズから。いやあ、まいった。ケイリブが「航志くん、プレイ・サム!」と叫ぶと、彼がローズでソロを弾く。また、サビの部分になると、航志くんのアドリブの「あ~~」とか、「お~~」という掛け声がケイリブにどんどん触発されてか、ソウルフルになっていく。ケイリブが「クロサワ、シング・サム!」、「ズズズ~、あ~~~、ダバダバ~~」と声でアドリブ。最後は、ゴスペルのコール&レスポンスのごとくの掛け合いになりました。ケイリブ、クロサワ、コーシの3人の「イッツ・オールライト」の繰り返し部分は、どんどん高揚していく。
終りそうで、終らない、エキサイトな7分57秒。これはまさに音楽の元にミュージシャンがひとつになり、ミュージシャンシップがスパークした瞬間でした。すごい瞬間に立ち会えてよかった。この瞬間に立ち会えた約130人の人は、かなりラッキーだったように思えます。
参加していただいたミュージシャンのみなさん、観客のみなさん、ありがとうございました。
(続く)
SOUL SEARCHIN’ TALKING VOL.4 2005.06.26 At Blues Alley
Setlist
Part 2=
show started 21:22
M07 Baby Grand (Kaleb solo)
M08 You Don’t Know Me (Kaleb Solo)
Talk
Video (Piano Blues, Blues Brothers: Shake Your Tail Feather)
Talk
M09 Unchain My Heart (Kurosawa Kaoru & Kaleb, Ohta Ken)
M10 You’ve Got A Friend (Kurosawa Kaoru & Kishita Koshi)
Talk
M11 Chikai (Kurosawa Kaoru & Kishita Koshi)
M12 I’ll Be Good To You (All, Kaleb lead, Kurosawa, Kishita, Ohta, Namura)
Encore What’d I Say (All, Kaleb lead, Kurosawa, Kishita, Ohta, Namura)
show ended 22:55
(2005年6月26日日曜、ソウル・サーチン・トーキングVol.4~レイ・チャールズ=目黒ブルースアレー)
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