Ray: This Could Be Jamie Foxx's Career Movie

(映画『レイ』の感想文です。ネタばれは最小限にしてありますが、事前の先入観なしに見たい方は、ご注意ください)

オスカー。

今まで見たミュージシャンを描いた映画の中でも最高のものだった。感心し、感動もした。これはすごい。全米で10月29日に公開されたレイ・チャールズの生涯を描いた『レイ』。日本では2005年1月29日から公開される。例えば、『ベニー・グッドマン物語』『バード』『パープル・レイン』『ローズ』などのミュージシャンにスポットをあてた傑作作品のリストに、この『レイ』もまちがいなくはいる。それだけでなく、そのトップに君臨する。

まず、何が素晴らしいといえば、ジェイミー・フォックスが素晴らしい。映画が始まってすぐに、もうジェイミー・フォックスではなく、そこには若き日のレイ・チャールズがいた。本当に生き写しだ。姿も、ふるまいも、そして、しゃべり方まで。声を聴いているだけで、レイ・チャールズだ。まちがいなく、俳優ジェイミー・フォックスの最高傑作であり、名刺代わりの一作になった。前評判が高くなっているのもうなずける。

そして、編集が素晴らしい。彼のキャリアとひとつの出来事をフラッシュバックさせる手法が、じわじわきて、見事としかいいようがない。2時間半の映画にもかかわらずまったくその時間を感じさせない。編集の妙だろう。テンポよく物語がうまく語られる。

脇役陣も素晴らしい。クインシー・ジョーンズ役、アーメット・エルテガン役、ジェリー・ウェクスラー役、ジョー・アダムス役、みないい。そして、僕がもっとも感動したのはレイの実母アリーサ役(シャロン・ウォーレン)だ。オスカー助演女優賞をどうぞ。自伝を読んで知っていた(と言っても見たわけではないが)アリーサのイメージにどんぴしゃのキャスティングに言葉を失った。盲目になっていくレイを力強く育てる母親の姿には胸を打たれずにはいられない。しかも、これが映画デビュー作だって? 信じられない! 

そして、音楽の使い方がまた憎らしいほど素晴らしい。レイ・チャールズのファンであれば誰でも知っているであろうヒット曲の数々が、彼の実際の人生とこれほどつながっていたとは。新たな発見で、これ以後、ここでかかった曲をラジオなどで聴いたら、『レイ』のシーンが思い出されることになるだろう。しかし、それを知らずとも、ストーリーの中で歌われる作品にはぐいぐいと引き込まれる。

ロケーション、衣装、映像が美しい。彼が育った深南部にある家。その周辺。裸足で走り回る子供時代のレイ・チャールズ。何かを暗示するかのような風鈴ならぬ風ビンと、それがかすかにぶつかる音。

そして、脚本が見事だ。もちろん、このエピソードも入れて欲しいというようなものは多々あるが、可能な限りエッセンスを抽出し、起承転結をバランスよくまとめた。ゴスペルからR&Bへ転じるシーン、ドラッグ中毒になっていくシーン、彼の稼ぎをくすねようとする連中との対決など、うまくドラマが書き込まれている。

当初はR&Bシンガーの音楽映画かと思っていた。だが、これは単なるブラック映画ではない。単なる音楽映画、ミュージシャンの自伝映画でもない。失明、人種差別、貧困。想像以上の苦労と苦難を乗り越え、70余年を生きてきたひとりの男のドラマを見事に描いた作品だ。こういう話はアメリカ人はもともと大好きだが、これはアメリカだけでなく、世界中で受けるだろう。一点のケチもつけようがない作品だ。

映画『RAY/レイ』
2005年1月29日からみゆき座、シネマライズなどでロードショー。

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