拍手。
1903年のある日、アメリカ南部ミシシッピー州のトゥットワイラーという街の駅で汽車待ちをしていたW.Cハンディーは、通りすがりの黒人が歌う奇妙な歌に耳を奪われた。その時は、まだ名前もほとんど知られていない「ブルーズ」という形態の音楽だった。後にハンディーはこの奇妙な音楽を初めて楽譜に起こす。ブルーズが記録された瞬間だった。
以来ブルーズは教会音楽であるゴスペルと対となり、アメリカ黒人音楽文化の両輪となってその生活の中に深く深く浸透していく。アメリカは2003年をブルーズ生誕100周年と位置付け、この偉大な音楽遺産に脚光を集めようとさまざまな企画を打ち出した。そんな中で始まった企画が『ブルーズ・ムーヴィー・プロジェクト』である。ここからテレビ・ドキュメンタリー7本が制作され、うち6本が日本でも劇場公開されている。
そして、そのドキュメンタリーとは別プロジェクトとして、現存するブルーズ・ミュージシャンとコンテンポラリーなアーティストが一堂に会する夢のようなライヴが行われ、その模様がフィルムに収められた。監督は再びマーティン・スコセッシ。そして完成した作品がこの『ライトニング・イン・ア・ボトル』である。
この映画は、まさにそのライヴをドキュメントした「ライヴ映画」である。20以上ののアーティストが次々とライヴを繰り広げる。そしてそのライヴ映像の合間に楽屋でのやりとり、リハーサルの模様などが差し込まれる。しかし、これは完全にライヴを見る、ライヴを楽しむ映画だ。
全体的にライヴを撮っているカメラがいい。映像も実に綺麗だし、音もよい。編集もうまい。一体カメラは何台回っているのだろうか。ほとんどカメラを意識することなく映像を見ていられるので、どんどんとライヴそのものへ入り込むことができる。日本のテレビでの音楽映像だとどうしても音楽へ入り込めないが、その点これはよくできている。ミュージシャンたちの汗の一粒も、しわのすべてをも撮影しようとする意気込みに、製作者たちの音楽自体への理解と愛情が感じられる。
ライヴのコンセプトはひじょうにシンプルである。オリジナル・ブルーズ・アーティストと、現代のミュージシャンの共演だ。若きアーティストがブルーズの古典をリメイクする。ヴェテランは持ち歌を歌う。昔のブルーズも、今の世代が引き継ぎますよ、と訴える。この映像には、ブラックミュージックのチェーンが途切れずに次世代にバトンタッチされている瞬間が見事に記録されている。
個人的に気に入ったのは、ネヴィル・ブラザースの「ビッグ・チーフ」や、ソロモン・バークのシーン。バークは「ターン・オン・ユア・ラヴライト」と「ダウン・イン・ザ・ヴァレー」を歌った。立派な椅子に座りながら、思い切り観客をあおり、そしてのらせる。その風体からも大変な存在感だ。ソウル、R&Bからゴスペル、ブルーズまで、すべてをこなすバークは、彼自身がブラックミュージックの生きる歴史そのもののようだ。どうしても一度ライヴを見たいシンガーのひとりだ。
それにしても老練なブルーズマンたちは本当に力強い。年老いて体力は落ちても、生き方が強い。余談で、しかも偏見だが、ブルーズを歌う者は、歯がきれいに揃っていてはだめだ。ナタリーコールは、きれいすぎ。(笑)
だが、このライヴ映像は見事。音楽自体が持つ「力」をそれほど削ぐことなく画面に刻み込んでいる。ライヴが行われた2003年2月7日、ニューヨークのラジオシティー・ミュージック・ホールにいたかった。そして、画面に向かって何度も拍手をしそうになった。映画館ではスタンディング・オヴェーションも起こるかもしれない。
映画に関する日本のサイト。
http://www.nikkatsu.com/movie/lightning/index.html
アメリカのサイト。
http://www.sonyclassics.com/lightninginabottle/trailer-open.html
映画『ライトニング・イン・ア・ボトル』は、2005年初頭シネマライズで公開予定。
同名サウンドトラック、11月3日、ソニー・ミュージック・ダイレクトから発売。
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